こんな世の中間違ってる 田中泯が葛飾北斎に憧れる理由

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佐藤美鈴
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 「世の中に対する不信感、もっといい世の中を常に夢見ているあたりは、はっきり共通している」

 「世の中は何歳はこうだ老人になるとこうだと人生を語られ判断されるけど、俺は今初めての体験をずっとして、新しい生を生きている」

 国際的ダンサーとして知られ、俳優としても活躍する田中泯。主演映画で演じた葛飾北斎に自身を重ねつつ、演技への向き合い方や踊りとの違い、コロナ禍での思案まで、縦横無尽に語った。佐藤美鈴

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田中泯さん=村上健撮影

 江戸時代浮世絵師、北斎の生涯を鮮やかな映像で描く映画「HOKUSAI」(橋本一監督、5月28日公開)。歌麿や写楽に刺激を受けて開眼し、幕府によって芸術家が弾圧される中、絵を描くことであらがい続けた姿を追う。青年期柳楽優弥から引き継ぐ形で、物語後半の老年期を演じる。

 たなか・みん 1945年、東京都生まれ。74年に独自の舞踊活動を始め、78年から海外でも活躍。2002年に「たそがれ清兵衛」で映画デビュー。映画やドラマに多数出演。「HOKUSAI」は28日公開。公開中の「いのちの停車場」にも出演。

僕は一番が大体嫌いなんです

 ――昨年の東京国際映画祭で上映されたときに「北斎に触れることの多い人生だった」と話していましたが、泯さんにとって北斎はどんな存在ですか

 どういう存在か……うーん。

 例えば浮世絵でも歌麿や写楽と北斎は違う。絵を描くという行為に、数学的、物理的、自然科学的なことが彼の中に体験され経験されているすごさがありました。

 それから、北斎漫画にかなり驚きました。実際に出てくるポーズなんかをまねしてみたりしたこともありました。

 世界や世間のことを考えることがおそらく彼の人生のほとんどだったんじゃないかな。自分が好きなものを好きなように描いていたわけじゃないと思います。

 ――特に好きな作品は

 僕ね、一番好きなのって聞かれると困っちゃうんですよ。なんだか他がなくなっちゃいそうな気がして。

 (ほほ笑みながら)僕は一番が大体嫌いなんです。

 ――北斎から影響を受けた部分はありますか

 具体的にどう受けたかと言われると非常に恥ずかしいんだけれど、影響というよりもやっぱり刺激的であり憧れでもあるということでしょうか。

 彼のように生きろとか彼のまねをしろとかいうことじゃなく、そういう先人がこの世の中にはいるんだということが、人間でいられることの大事な部分であるという風に思います。

写真・図版
「HOKUSAI」(C)2021 HOKUSAI MOVIE

 ――国際的にも高く評価され、芸術を追究してきた姿は、泯さんに重なります

 いやいやいやいやいや……もう僕は比較がしようがないです、本当に。何回生き直してもああはなれないと思います。

 ただ、僕は小さな時から、相手が変わると話し方も変わってしまうような大人とかを色々と見てきて、大人に対する疑問っていうのがずっと今でもあるんです。こんな年になってもどこかで疑っている、あるいはむかむかしているみたいな世の中に対する不信感、もっといい世の中を常に夢見ているあたりは、はっきり共通しているなと思います。

 「HOKUSAI」に限らず時代劇で常に思うのは、時代劇だとはっきり言えるんだなと。こんな世の中間違ってるって。

踊りは唯一、近さを求めるもの

 ――現実にも北斎のように言うべきことがある、と

 今の世の中、もっと大勢の人が言わなきゃいけないことだらけだと思います。そういう意味では北斎はそういうことを言っているし、それを表現にしている。

 表現自体は語らないわけですが、感じてもらえる。彼にとっては絵が言葉だったんでしょうね、きっと。

 それを僕は踊りで、せめて目の前にいる人には届かせたいと思ってやっているわけです。

 踊りは人によって運べない…

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