兵庫知事選、自民分裂で構図一変 旧民主系も対応割れる
7月18日投開票の兵庫県知事選まで2カ月を切った。長く与野党相乗りが続いていた知事選の構図は一変。推薦をめぐって、前副知事の金沢和夫氏(64)と前大阪府財政課長の斎藤元彦氏(43)で自民が分裂し、旧民主系も対応が分かれた。20年ぶりとなる知事交代の舞台は、「保守分裂」選挙になりそうだ。
「推薦候補の決め方は不明瞭。民主的だったのでしょうか」。4月20日、神戸市のホテルで開かれた金沢氏の後援会の設立総会。井戸敏三知事はビデオメッセージで、金沢氏への支持を初めて明確に表明するとともに、斎藤氏の推薦を決めた自民党の決定過程に疑問を投げかけた。
2日後の同月22日、斎藤氏は東京・永田町の自民党本部で、党総裁の菅義偉首相から推薦証を受け取っていた。菅首相と二階俊博幹事長から「祈必勝」と書かれた色紙を渡された斎藤氏は、党本部内で会見。冒頭、「菅総裁から推薦状を正式にいただいた」と強調した。
ある自民党の支持団体の幹部は「地元議員や県庁OBからは金沢氏への支援を求められたが、国会議員からは斎藤氏支援を要請された。双方から推薦状を求められ股裂き状態だ」と苦悩を漏らす。別の団体幹部も「1年前から金沢氏支援で動いている。今さら変えられない」と悩みを語った。
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知事選をめぐっては、これまでに4氏が無所属での立候補を表明した。井戸知事の5期目の任期が満了となる7月末へ向けて、動きが出始めたのは1年以上前になる。
県議会の最大会派「自民党県議団」が、2010年から副知事を務める金沢氏を知事選候補とする方針を決めたのは昨年1月のことだ。だが昨秋、自民党県議団の一部が「勝てる候補」の擁立へ模索を始める。それが斎藤氏だった。
背景には、大阪を中心に勢力を伸ばす日本維新の会への意識があったとされる。維新は19年春の県議選と神戸市議選で、得票率を前回から増やした。兵庫の自民内には「知事も狙ってくる」と維新への警戒感が膨らんだ。斎藤氏は、日本維新の会の代表・副代表を務める大阪府の松井一郎前知事(現大阪市長)と吉村洋文現知事に仕えた。自民関係者は「若手議員を中心に、維新と相乗りすれば知事選に負けないとの考えがあった」とふり返る。
自民党県議団は昨年12月、多数決で金沢氏の擁立を決定。その後、斎藤氏の擁立をめざす11人は会派を離脱した。金沢氏と斎藤氏は、それぞれ要請を受ける形で、今年3月に立候補を表明した。
すぐさま反応したのは維新代表の松井氏だった。斎藤氏を「優秀」と評価し、「東京に対抗できる副首都圏をつくるには兵庫県も改革が必要だ」と自民よりも先に推薦を決めた。
これに、兵庫の自民関係者は再び警戒を強めた。「自民の候補ではなく維新の候補のようだ」「政策は近いが、パフォーマンスが過ぎる」。自民県連は4月、投票の結果、金沢氏の推薦を党本部に求めると決定した。
だが、事態はさらにひっくり返る。
県選出の国会議員15人全員が相談のうえ斎藤氏支持で一致し、党本部に意見を具申。党本部は、県連の投票結果とは異なる斎藤氏の推薦を決めた。金沢氏を擁立した自民党県議団(32人)の小西隆紀幹事長は「地方の声を大事にするのが自民党の強さ。党の決定は民主的だったのか」と、引き続き金沢氏支持で動く構えだ。
そんな揺れ動く自民党を、大阪選出の維新衆院議員は冷ややかに見つめる。「国会では自民党とうまくやっている。兵庫に進出して、けんかしようなんて思ってもいないのに」と分裂を気にも留めない様子だ。
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国政で野党第一党の立憲民主とその支援団体も、保守分裂を追うように対応が割れている。
維新が斎藤氏の推薦決定を明らかにした4月6日、県議会の第2会派で立憲県議も所属する「ひょうご県民連合」(14人)は斎藤氏支持を打ち出した。「早い段階で方向性を示すことで、会派の政策を組み入れてもらいたい」(石井秀武団長)と説明した。だがその後、立憲の支援団体である「連合兵庫」は、金沢氏の行政経験を評価し、推薦を正式決定した。
今月23日に対応を協議した立憲民主党県連の結論は、あいまいな形になった。協議では、連合が推す金沢氏への支援に異論は出なかった。一方で、金沢氏への推薦は出さない。党関係者は「幅広く支持を集めるには『与党の斎藤氏』対『野党の金沢氏』の構図は避けた方がいいと考えた」と明かす。
国民民主や公明の県組織の知事選への対応は定まっていない。知事選にはほかに、共産が推薦する元県議の金田峰生氏(55)と、元加西市長の中川暢三氏(65)が立候補を表明している。
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