「今は心境が違う」 五輪中止を口にした医師選手の本音

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ロンドン=遠田寛生
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 東京オリンピック(五輪)の開幕まで3日で50日となった。国内では新型コロナウイルス感染が収束する気配は見られず、開催に反対する声も日ごとに大きくなっている。先行きが不透明ないま、海外の選手たちは何を思うのか。

 五輪に出ることは目標だ。しかし、それがすべてではない。

 アイルランドのボート男子の東京五輪代表、フィリップ・ドイル(28)はそんな考えの持ち主だ。

 2019年世界選手権のダブルスカルで銀メダルに輝いた実力者は、研修医でもある。「人生で最も優先しているのは医師になること。競技はいつも2番目」。東京大会に向けて大事な準備期間だった18年途中には、勉強を優先して一時競技から遠ざかった。

 新型コロナウイルスの感染拡大で東京五輪の延期が決まった昨春にも、迷いなく競技から離れた。

 当時の医療現場は新型コロナへの対応で混乱していた。「何か役に立ちたかった。ボートを速くこぐことしか考えていなかった生活から一変した。厳しい挑戦だったけど、やりがいも大きかった」

 北アイルランド南部の病院に自ら連絡し、働かせてほしいと頼んだ。その後ベルファスト市内の病院に移った。

 週に60~70時間、病院で治療にあたった。帰宅するたび、誰もいないガレージで着替えてから室内へ入った。同居していた母親への感染リスクを少しでも減らすためだった。

 病院で働いた間にも、代表候補による合宿への誘いが届いていた。でも、ほかの選手やスタッフへの感染リスクも考えて断った。

 医師として働く責任感や充実感を味わう一方で、頭の片隅には東京五輪が引っかかっていた。

 「五輪は中止ではなく、延期。いつかまたボートをこぐと思っていた。働くことで不利な立場になりたくなかった」

 睡眠時間とてんびんにかけながら、トレーニングにあてた。1日1時間しかない日もあった。病院での勤務は約8カ月間に及んだ。

 延期が決まった当初、1年後には、世界中の人たちが直接声援を送ることができる五輪が開かれるはずだと、わずかな希望を持っていた。だが、コロナの勢いは収まらなかった。海外からの一般客受け入れは見送られ、参加選手には厳重な行動制限が強いられる見込みだ。

 「昨年このような制限になると分かっていれば、中止にしようと言った」

 ドイルは胸の内を明かし、こう続けた。

 「今は心境が違う」…

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