第4回「あいまい戦略」は限界か 米国が危険視する中国の野望

有料会員記事

ワシントン=園田耕司

拡大する写真・図版デザイン・米澤章憲

[PR]

 「私は、中国が米国に取って代わろうとする野心を強めていることを憂慮している。彼らは2050年までにそれを達成したいと言い続けている。私は、彼らがその目標時期を短縮しようとしていることも憂慮している」。3月9日、デービッドソン米インド太平洋軍司令官(当時)は、上院軍事委員会公聴会で上院議員らを前にこう前置きすると、続けた。

 「台湾は明らかに彼らの野望の一つだ。その脅威は今後10年間ではっきりとあらわれるだろう。実際のところ、6年以内だ」

 デービッドソン氏の発言は、中国が米側の予想を超える急速な軍事力の拡大を続けており、「6年以内」に台湾を侵攻する可能性があると警鐘を鳴らしたものだ。中国の国防費はここ30年間で40倍以上に膨れあがり、米国に続き世界第2位になっている。近年は「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイル「DF21D」を始め、米領グアムまでも射程に収めて「グアム・キラー」と呼ばれる中距離弾道ミサイル「DF26」などの配備を進める。「A2/AD(接近阻止・領域拒否)」の能力強化を図るなど、米側は危機感を強めている。

連載「台湾海峡『危機』のシナリオ」(全7回)

米国と中国の対立が先鋭化し、中国が台湾への圧力を強めています。台湾をめぐる日米中などの動きや思惑を描く全7回の連載です。4回目では、中国への危機感を強める米国が打ち出す、中国・台湾戦略について実情に迫ります。

 この危機感は予算面でも顕著に示されている。米国防総省が5月28日に発表した予算で、新しく太平洋地域の米軍強化のための基金「太平洋抑止イニシアチブ(PDI)」を設置し、51億ドル(約5600億円)を計上した。同時多発テロ以来の中東重視からアジア重視へと米軍の軍事戦略が大きく転換したことを印象づけた。

 ただ、「6年以内の台湾侵攻」との予測には、米軍事専門家の間では疑問の声も強い。米シンクタンク「国際政策センター」武器安全保障プロジェクト部長のウィリアム・ハータング氏は、「明らかに大げさだ。米軍高官は中国リスクを現実以上に膨らませ、軍事予算を増やすための理由を作っている」と指摘している。

拡大する写真・図版デービッドソン前米インド太平洋軍司令官=AP

 実際、デービッドソン氏が公聴会に先立ち米議会に提出した米インド太平洋軍の予算要望書によれば、2022会計年度(21年10月~22年9月)の予算規模は46億ドルに達し、21会計年度の22億ドルの2倍超となった。予算要望書では「中国を抑止するために重要な軍事能力に資源を集中させる」と強調。九州・沖縄からフィリピンに至る第1列島線に沿って、地上発射型中距離ミサイル網を構築する計画を明らかにした。

 ハータング氏は「米軍は歴史的な転換時に、いつもそれ相応の理由づけをして高い軍事予算を要求してきた」と語る。冷戦終結後にソ連の脅威がなくなると、イラク北朝鮮など地域国家の脅威を強調して軍事予算を要求。米同時多発テロが起きると、今度は対テロ戦争のために大幅な軍事予算増を要求した。ハータング氏は「今、テロとの戦いが終わりつつあり、アフガニスタンイラクでの駐留米軍を減らす流れへと転換している中、今度は中国との大国間競争という軍事戦略を打ち出している」と指摘。「中国の脅威の過度な強調は、むしろ中国との軍拡競争のリスクを高め、中国の軍事能力を高める動きを誘発しているなど、(中国の抑止という目的とは)逆効果を生み出してしまう」と危機感を示す。

記事後半では、米国が40年以上とり続けている「あいまい戦略」の是非について触れています。戦略を変えれば台湾防衛に資するのか。それとも中国の態度が頑なになるだけなのか。米国内の政治議論から読み解きます。

 一方で、デービッドソン氏の…

この記事は有料会員記事有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。