第6回「過去最悪」の中台関係 危機に備える台湾、日米に期待

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石田耕一郎=台北、編集委員・佐藤武嗣
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デザイン・米澤章憲
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 日米首脳が共同声明で、「台湾」への言及を半世紀ぶりに復活させた4月16日(日本時間17日)、蔡英文(ツァイインウェン)総統は、普段多用するSNSでも沈黙を守った。台湾総統府や外交部(外務省)が当日に謝意を表明するなか、蔡氏は4月20日にようやく、ツイッターに英語と日本語で「(声明を)評価します」とつづった。

連載「台湾海峡『危機』のシナリオ」(全7回)

米国と中国の対立が先鋭化し、中国が台湾への圧力を強めています。台湾をめぐる日米中などの動きや思惑を描く全7回の連載です。6回目は、日米中という大国に囲まれる当事者でもある台湾の動きや、近い将来に起こりうる危機のシナリオについて読み解きます。

 蔡氏はこれまでSNSを、内外へのメッセージ発信に使ってきた。東日本大震災から10年に当たる今年3月11日には、地震発生時刻に合わせ、ツイッターに日本語で追悼のメッセージを発信したほどだ。蔡政権にとって、共同声明の「台湾」言及は外交的な成果だが、与党議員は異例の沈黙について「中国の反応を見ているためだ」とみる。

 台湾は、軍事力で中国に対して圧倒的な劣勢にある。日本の防衛省のまとめでは、今年の軍事予算は中国の約23兆円に対し、台湾は約1・4兆円。毎年の予算額の差は拡大の一途だ。総兵力も中国の約204万人に比べ、台湾は約16万人にとどまる。

 蔡政権はこうした現状を踏まえ、米国から新型のF16V戦闘機のほか、移動可能な車両型で離島や艦船上からも撃てる射程300キロのロケット砲など、中国の内陸部を狙える武器を大量購入してきた。また、独自の潜水艦やミサイル開発にも力を注ぐ。国防部(国防省)は昨年11月、米海兵隊が訪台し、台湾海軍に上陸戦などを指導したと台湾メディアに初めて認め、今年1月以降には台湾周辺空域での米軍機の飛行実績も公表している。米国による軍事面での支援を積極的に公表し、中国に自制を求める戦略だ。

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台湾南部で今年1月、軍事演習を視察する蔡英文(ツァイインウェン)総統=ロイター

 国防部は3月に公表した今後4年間の国防方針を記した報告書でも、章を独立させて中国からの防衛に関する対外協力の重要性を確認。米国との連携に加え、名指しを避けながらも日本などを念頭に、「民主的な友好国と人的交流や軍事演習の見学、国防関係者の駐在拡大などを図り、協力の拡大をめざす」と指摘している。台湾有事の回避に加え、中国の攻撃を受けた場合でも、台湾防衛には米国や友好国の協力が欠かせないとの認識が透ける。

 台湾海軍の元軍艦長で2011年に退役した軍事評論家の呂礼詩氏(52)は、中国の習近平(シーチンピン)国家主席が自身のレガシーのためにも台湾統一にこだわるだろうと分析する。その上で、中国軍の戦闘機の近代化が日米に劣っているうえ、空母を使った兵士の訓練も実戦レベルに至っていないと指摘。「中国が台湾を攻撃する場合、日米も相手にする必要がある。東シナ海などでの中国軍の動きはまだ攻撃的でなく、少なくとも今後5年間、台湾侵攻はない」と語る。

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中国福建省の沖合約10キロにある台湾・金門島の海岸に残る金属製の棒。中台が戦火を交えた時代、中国軍が満潮時に船で上陸してくるのを防ぐ「忍び返し」として設置された。奥にかすむのは対岸の福建省アモイの街並み=石田耕一郎撮影

 一方で、呂氏は台湾が日米と正式な軍事演習を実施できていない現状を踏まえ、「せめて台湾有事を想定し、早急に両国と無線やコンピューターを使った通信の訓練をしておくべきだ。軍にとって通信は最も大切な基礎だ」と訴える。

米国などからの協力を得て防衛を強化する台湾。それでも、中国側が緊張を高める要素が消えたわけではありません。記事後半では、遠くない未来に危機が起きるとすればどんな出来事がきっかけになるのかを論じています。

3年後の総統選、危機の引き金に?

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