トトロの森近く、金型工場が見つめる「中国の半歩先」

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久保智
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 東京都埼玉県にまたがる狭山丘陵映画「となりのトトロ」の舞台ともされる広大な里山近くに、その金型工場はある。狭山金型製作所(本社・埼玉県入間市)。国内外の企業幹部たちが、1千分の1ミリ単位の精度を求めて足を運ぶ。(敬称略)

 社長の大場治(59)が、父親から事業を引き継いだのは1987年。韓国や台湾などが安い人件費を武器に力を付けつつあった。「何かを極めれば、まだ1番になれる」。そう考えた大場は金型の「微細化」に取り組むことを決め、2001年、同じ入間市内のこの地に工場を移した。

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狭山丘陵近くの狭山金型製作所。周囲には特産のお茶畑も広がる=2021年6月1日、埼玉県入間市

 細かな加工や作業には、自動車の振動は無視できず、幹線道路から離れた静かな環境が必要だった。日差しの影響を受けにくい半地下にし、工場内の温度を24度前後に保つのも、マイクロメートル単位での加工精度を高めるためだ。

 小指の先ほどの大きさのスマートフォン内のプラスチック製コネクター部品向けの金型でさえ、数百の金属部品を組み立ててつくる。大型の工作機械で加工した金属部品を、少しずつ削ったり、顕微鏡でのぞき込んだりしながらひとつずつ組み立てる。金型内にわずかなすき間があれば、部品を量産する際に不良品が多く出る。大場は「最後は人の手が精度を決める」と話す。

 金型は、金属を型抜きしたり、樹脂を流し込んで成形したりする「道具」だ。同じ製品や部品を短時間で大量に生産するのに欠かせない金型技術は日本の強みとされ、戦後日本のものづくりを支えてきた。

 だが、家電製品や自動車などの量産工場の海外移転が加速すると、徐々に勢いを失った。日本金型工業会によると、18年の日本の金型生産額は約1・5兆円で、ピーク時(91年、約2兆円)の4分の3ほど。多くが従業員30人以下の金型工場の数は、91年の約1万3千カ所からほぼ半減した。台頭してきたのは中国で、年間生産額は日本の2倍超。「日本の金型屋がようやく1台買える高額の工作機械が、中国の工場には数十台ずらっと並んでいる」(業界関係者)。高性能な工作機械の大量導入などで、「オヤジのDIY」と揶揄(やゆ)されるほどだった品質も大きく向上しているという。

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狭山金型製作所の大場治社長。小指の爪よりも小さいコネクター部品向けの金型などの製作には1千分の1ミリ単位の精度が求められる=2021年4月22日、埼玉県入間市

「中国の半歩先を行くしかない」 痛い目に遭った社長は腹をくくった

 大場も痛い目に遭ったことがある。デジタルカメラや携帯電話向けの金型を日系大手の中国工場に送っていたが、2年ほどで受注を失った。金型を分解すればおおよその仕組みは分かるため、金型の発注先を地場企業に変えられたためだ。

 ノウハウの流出に危機感を覚えた大場は、これを機に欧米向け営業を強化した。今では、精密さで知られるスイスの時計メーカーからも受注がある。需要が伸びそうな医療機器向け微細部品の金型製作にも力を入れる。「中国の半歩先を歩み続けるしかない」。大場はそう話す。

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自動車の排ガス浄化装置内で粒子状物質を除去するセラミック製のフィルター向けの金型の一部。3~4カ月かけて紙1枚と同じ厚さの溝を入れていく=2021年4月28日、岐阜県大垣市

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