危険を冒して子を守る マウスで子育ての脳のしくみ解明

神宮司実玲
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 身の危険を冒してでも子を守る。そんな脳のしくみの一端を、理化学研究所などのグループがマウスで解明した。ある特定の神経細胞のはたらきを抑えると、危ない場所にいる子を助けにいく行動をとりにくくなることがわかった。グループは、「ヒトの子育て意欲の低下への理解や支援にもつながると期待できる」としている。

 グループは、子育て中の母親マウスでは、ホルモン分泌などを担う脳の視床下部の一部で、「カルシトニン受容体」がある神経細胞が最もよくはたらいていることを突き止めた。妊娠すると、この受容体が8倍に増えていた。

 カルシトニン受容体神経細胞の表面にあり、細胞の外にある特定の分子をつかまえて、その信号を細胞内に伝える。

 母親マウスで、この受容体がある神経細胞のはたらきをとめると、授乳や子を運ぶ行動などが激減。翌日に生きていた子マウスは2割で、神経細胞のはたらきをとめなかった場合の生存率の8割から大幅に低くなった。

 40センチの高さに置いた、十字型の細い通路を使って、この受容体のはたらきを調べた。4本の通路のうち1本には、転落を防ぐために両側に壁をつけた。マウスは通常、壁に挟まれた通路にいることを好む。

 壁のない通路に子を置くと、妊娠前のマウスはほとんど助けに行かなかったが、母親マウスは助けに行った。さらに、母親マウスの神経細胞にあるこの受容体を半分に減らすと、子を救出するのに倍近い時間がかかった。一方、飼育かごの中では、子育てに支障はなかった。

 これらから、グループは、この受容体は、リスクを冒してでも子育て意欲を維持する「母性」の一端を担っているとみている。

 グループは2012年、視床下部の一部の領域の機能が下がると、子育て行動ができなくなることをマウスで見つけた。ただ、この領域には7種類以上の神経細胞があり、今回の結果が出るまで、どの細胞が子育てに必須かは不明だった。

 この領域は、ヒトを含むほかの哺乳類との差が比較的小さい。子育ての基本的な脳内メカニズムも、共通している可能性が高いという。グループは現在、ヒトにより近いサルで研究を始めている。

 理研の黒田公美チームリーダーは、「子育ての脳内メカニズムは、脳科学の中でもあまり着目されていない部分なので、研究を進めたい」と話した。成果は1日付の米科学誌セルリポーツに掲載された(https://doi.org/10.1016/j.celrep.2021.109204別ウインドウで開きます)。(神宮司実玲)