2019年に91歳で亡くなった作家の田辺聖子さんが第2次世界大戦の終戦前後に記した日記が、兵庫県伊丹市の自宅から見つかった。作家としての未来に、正直な迷いを明かす一方で、のちの作品につながる自立した女性の生き方を、早くから模索していた様子も浮かんでくる。
〈青春を祖国に捧げ切るという事は、やさしいようで辛く、むつかしいことだ〉。日記には、戦争への向き合い方に逡巡(しゅんじゅん)する様子がたびたび出てくる。
田辺さんは、作家となったのち『楽天少女 通ります』などの自伝的作品の中で、自らを「軍国少女」として、自嘲的に描いた。今回見つかった日記でも、戦果に一喜一憂する一方、国が進める戦争に懐疑的な視線を向け〈考えがまとまらない〉と書いた日もある。
〈是非とも何かになりたい。小説家? 否。では何に?〉
作家として生きていくことへの迷いにも、繰り返し触れている。
日記を書き始めた直後の19…