ITの街で流行るスローなパン作り 記者も挑戦してみた

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サンフランシスコ=尾形聡彦
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 サンフランシスコの名物として、地元の人たち誰もが思い浮かべるのは、酸味があるパン「サワードウ・ブレッド(Sourdough bread)」だ。“周囲を海に囲まれた地形から、冬は比較的暖かく、夏はそれほど暑くならない、地域一帯の気候が影響している”“サンフランシスコ地域特有のバクテリアが影響している”――と、説はさまざまだ。

 一度は記事で紹介したいと考えていたが、準備に取りかかった今年3月はまだ、サンフランシスコやシリコンバレー一帯で、外出制限が続いており、レストランの屋内飲食は定員の25%が上限。「基本的に外食しないように」求められている時期で、取材とはいえ、食事に行くのは気が引けた。

料理のセンスはないけれど

 思いついたのは、サワードウ・ブレッドを自分で作ってみることだった。

 昨年来のコロナ禍で、この一帯でサワードウを自分作ることがはやっている、という地元の記事を目にしたことがあり、気になっていたからだ。

 普段料理をせず、時々料理すると大失敗をするセンスのない私が「サワードウ・ブレッドを作る」と宣言したことに、家族は少し驚いていた。でも「仕事だから……」と言い訳しながら、めげずに取り組み始めた。

 頼ったのは、サンフランシスコで有名なベーカリーの一つ、「ザ・ミル」の共同経営者、ジョゼー・ベーカーさんのレシピだった。

ベーカーさんの絶品レシピ

記事後半では、ベーカーさんのサワードウのレシピを詳細な分量や所要時間とともに紹介します

 サワードウづくりには、「スターター」と呼ばれる、乳酸菌や酵母が活発に活動しているパンの元が必要だ。この地域では、「100年もののスターター」といったサワードウの元が、個人売買されているし、パン屋によっては分けてくれるところもある。一方で、自分でゼロから作ることもできるのだという。

 スターターづくりで必要なのは、小麦粉と水だけ、というシンプルさにひかれ、一から自分で作ってみることにした。

 レシピには「可能なら、ライ麦粉がいいけれど、別に小麦粉なら何でもいい」とある。ライ麦粉がすぐに手に入らなかったので、近くで買えた「全粒粉(ホール・ウィート・フラワー Whole wheat flour)」でスターターを4月に作り始めた。

 最初に分かったのは、サワードウづくりは難しくはないけれど、時間のかかる作業だということだった。

 ベーカーさんに教わったスターターづくりは、まず「小麦粉35グラムに、60ミリリットルの水を混ぜ、よくかき混ぜてから1日置いておく」というもの。

 1日たったら、そこから10グラムを取り出す。そこに、新たに全粒粉100グラムと温度約29度の100ミリリットルの水を混ぜ、1日置く――。翌日、発酵が進んだスターターから、再び10グラムを取り出して、全粒粉100グラムと温度約29度の100ミリリットルの水を混ぜる。この作業を少なくとも2週間、繰り返す。

 そうすることで、スターター内の乳酸菌や酵母がようやく、サワードウを焼ける程度まで活発になるのだという。市販のイースト菌などは一切使わず、全粒粉やこの地域の空気中にある自然のバクテリアが入り込んで自然に発酵していくのを促す作業だ。

生き物を育てる感覚

 実際に始めてみると、毎日地道にスターターを育てていくのは、根気のいる作業だった。

 家族が寝静まった夜中、日本との時差の関係で記事を書いている合間に、「スターター10グラムに、全粒粉を100グラム足して、約29度の水を100ミリリットル足して、かき混ぜる」という作業を毎日繰り返した。素人ながら、「夜中のパン屋」のような気持ちだ。

 気づいたのは、スターターを育てていくのは、一種、生き物を育てていく感覚に近いということだった。

 スターターは室温で置いておけば、一日たつと発酵して膨らんでいくようになる。容器のふたを開けると、発酵の際の空気の泡がゆっくり膨らみ、はじける様子も見える。

 毎日ゆっくり発酵していくスターターの様子を見守る作業は、シリコンバレーグーグルやアップル、フェイスブックなどの米巨大IT企業の動向をウォッチし取材し、記事を書く私の日常のせわしない時間の流れとは、対極にあった。

 スターターを作り始めて、1週間たつと、発酵が進み、酸っぱい、いい匂いが漂うようになった。

 これって、もうサワードウが焼けるのでは?

 そう思った私は、練習でパン…

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