頼りの病院も「骨折は無理」 リコールの町、医療はいま
伊藤智章、本井宏人、土井良典
「行ってきます」
週に3回、朝8時。東栄町中設楽に住む金田裕之さん(58)は、母親(92)を1人残して家を出る。行き先は、約40キロ離れた浜松市浜北区にある透析クリニック。毎回、血液から老廃物を取り除く人工透析を4時間ほど受け、往復で約6時間の行程になる。
昨年3月に町の東栄医療センター(旧東栄病院)が透析をやめるまでは、家から10分だった。同町など2町1村の北設楽郡に、透析ができる医療機関はほかにない。20人弱いた患者は浜松市のほか、愛知県新城市、長野県阿南町などまで通うことになった。
町長リコールのきっかけとなったのは、地域医療の危機でした。町長は、医療態勢を縮小して初期医療に特化する方針を掲げ、「ほかに方法はない」といいます。過疎地の医療の現状を、記事後半で紹介します。
送迎する民間クリニックもあるが、患者は高齢者が多く、道中は山道。ワゴン車に車いすごと固定されて通っている人もいる。
「俺はまだ若いから、いいんだけど」。金田さんの気がかりは、ぜんそく持ちの母親のこと。透析で出かけている間に具合が悪くなったら――。センターは休日夜間の救急受け入れをやめ、入院病床も来年には廃止される。
母親はどこで医療を受ければいいのか。
■過疎化で患者は半減、医療ス…