理想の職場、どう探す?ハードの条件とソフトな条件とは

中島美鈴
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 今月は「将来への漠然とした不安」に対する解決の仕方をテーマにしています。ADHDの大人に向けたコラムを連載していますが、何かを決断することが苦手であるという特徴は、実はADHDの方に多くみられるものなのです。臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。

今回は四つのステップの二つ目を解説

 このままの働き方でいいんだろうか、というモヤモヤを抱えたADHDの主婦リョウさん。漠然とした悩みを現実的な悩みにするために、今月のコラムでは、リョウさんの悩みを次の四つのステップで解決していきます。

 ①漠然と悩まず情報を収集しながら現実的に悩もう(前回)。

 ②欲しいゴールを明確にしよう(ハード→ソフトの法則)(今回)。

 ③コントロールできるものとできないものを区別して不安を下げよう(6月3週目)。

 ④忘れてはいけないだめもと相談と交渉(6月4週目)。

 前回までに情報を集めながら決断のための材料を手元にそろえました。今回は、これらを元に、「欲しいゴール」を明確にします。

 リョウさんは、一体どんなふうに働きたいのでしょう? もっといえばどんな生活を送りたいのでしょう?

 アヤ「リョウはどんなふうに働きたいの?」。

 親友のアヤさんにこう言われたリョウさん。困ってしまいました。

 リョウ「え、どんなふうにって……。それ難しいよ。それがわかっていたら苦労はしないな。だって、独身のときだって仕事はギリギリでやってたから、自信ないんだよね。これってスキルもないしさ。あーあ、若い時にちゃんと資格とか取っておくべきだった」。

 だいたいいつもこんなことを話しながら、2人の愚痴タイムは終わるのです。

単なる愚痴で終わらせないために

 それなりにすっきりするのですが、現実は1歩も前に進んでいないのです。

 でも今日のリョウさんは、情報収集した項目をメモに書いています。アヤさんはのぞき込みました。

 ・今の勤務先でパートから正社員になった前例はない。

 ・扶養には二つあって、税法上の扶養に入れる場合の収入は年間103万円まで社会保険上の扶養だと収入130万円まで。

 ・リョウさんの住む市の学童の入所条件は「月曜日~土曜日で3日以上かつ午前8時半~午後6時のうち1日4時間以上の就労」。

 アヤ「そっかそっかー。今の勤務先でそのまま働き続けても正社員にはなれなさそうよね。リョウは正社員になりたいの?」。

 リョウ「うーん、正社員がいいって思い込んでたけど、実際子ども生まれて、今パートしてみると、けっこうしんどいんだよね。でも将来的には正社員の方が安定するのかなーみたいな漠然とした不安がある」。

 アヤ「パートと正社員だけじゃなくて、フリーランスとして起業するみたいな選択肢もあるしねぇ」。

 リョウ「これ以上選択肢を増やさないでよー」。

 アヤ「ごめんごめん。選択肢から考えるから混乱するのかも。リョウにとって働く条件って何が譲れないのかな? それをはっきりさせたら、どの選択肢が自分の希望に合うのか見つけやすいと思う。あと、リョウのところ、学童預けやすいんじゃない? これは選択肢が広がってうらやましいかな。うちなんかだと、もう正社員が優先されるから、なかなか大変。もちろんリョウのところも勤務時間長い人が優先にはなるんだろうけどさ」。

 リョウ「そうかー、働く条件で譲れないものかあ」。

条件のハード面、ソフト面とは?

 2人は職場に求める条件を書き出していきました。

 このときのポイントはなるべく「ハード面」から決めていくことです。

 たとえば、通勤時間、労働時間、給与、社会保険などがそうです。これらはがっちり決まっているものなので、条件として書き出しやすいし、その条件で探しやすいのです。

 反対に、「働きがい」「人間関係のよさ」などはたいてい実際働いてみないとわからないものです。これらは可変のものなので「ソフト面」です。

 まずはハード面を固めていくことが自分の欲しいゴールを描くには必要です。もちろんソフト面は私たちの幸せを左右しますし、大変重要なものですが、極端に低い給与や、長い通勤時間などは体力も気力も続きません。

 まずはハード面を最低限確保してからソフト面の検討に入るという手順をとれば、決断しやすくなるでしょう。

 リョウさんの欲しいゴール(勤務先)のハード面の条件は以下のとおりです。

・週に3日勤務

・できれば午前9時~午後3時

・娘を市の学童に預ける

・今のところ給与は103万円未満がよくて、将来的には月に20万円ぐらい欲しい

自転車通勤15分以内

・今すぐではなく娘が中学生から正社員になれる制度がある

・子どもの授業参観などで休みやすい職場がいい

・経営のことを考える余裕はないので雇われていたい

 かなり具体的にできましたね。でもリョウさんはまだ困った顔をしています。

 リョウ「好き勝手に働く条件を書いたけど、実際こんな求人あるかな……。コロナもはやっているから、下手にたくさん働いてそこで感染したくないし。ああどうしよう」。

 次々に悩みは数珠つなぎになるものですよね。次回はこんな果てしなく続く不安への対処をご紹介します。

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中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。