いない「進撃の巨人」に私はおびえた 今に通じる不条理

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真野啓太
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 漫画「進撃の巨人」の最終巻が発売された。人食い巨人におびえながら暮らす人類という、おぞましい設定の物語が、日本にとどまらず、世界の人を魅了しているのは、なぜなのか。作家・諫山創(はじめ)さん(34)の故郷・九州で、巨人の伝承を取材する記者(30)が考えた。

 初めて「進撃の巨人」の単行本を手にしたのは2011年、大学生のときだった。テニスコートの脇で、後輩の本をぱらぱらとめくったところ、手が止まらなくなった。「続きを知りたい」。その一念に支配された。

巨人=恐怖の存在というイメージ

 物語はこんなふうに始まる。

 正体不明の巨人が出現した世界。巨人に食われずに生き残った人類は、高さ50メートルの壁を建設し、その内側で、つかの間の平和を享受していた。

 ある日突然、壁よりも巨大な「超大型巨人」が現れる。門が破壊され、人食い巨人が壁の中に侵入。たくさんの犠牲者が出る。

 「駆逐してやる!!」

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作者の故郷にある大山ダムの壁を見上げるように設置された「進撃の巨人」の主人公らの像=2020年11月8日午前11時28分、大分県日田市大山町西大山、寿柳聡撮影

 幼少期に母を巨人に食われた主人公エレンは、人類を巨人の呪縛から解き放ち、壁の向こう側に広がる世界を見るために、兵士に志願。仲間とともに、巨人の謎に迫っていく。

 物語の展開をスリリングにしているのは、「無垢(むく)の巨人」と呼ばれる、無数の人食い巨人たちだ。

 小さいもので数メートル、大きいものは15メートル。人の形をしているが、裸で、性別もわからず、会話もできない。

 人を見つけると襲いかかり、キュウリをまるかじりするかのように、人を食ってしまう。首の後ろの弱点を破壊しない限り、何度も再生して、襲ってくる。登場人物が巨人に見つかる場面では、読み手も絶望感におそわれる。

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「進撃の巨人」の作者、諫山創さんの故郷にあるダム。ARアプリを使うと、ダムの上に「超大型巨人」が現れた=2020年11月、大分県日田市、寿柳聡撮影

 本作でわたしは、巨人=恐怖の存在というイメージが刷り込まれた。

日本にはいない、ヨーロッパにはいる

 記者になり、ひょんなことから日本各地の「巨人の伝説」の取材をすることになったが、まもなく気づいたことがある。

 人食い巨人は、日本にはいないのだ。

 言い過ぎた。まだ日本中をくまなく調べきったわけではなかった。だが、少なくとも九州には、人食い巨人はいないようだ。

【連載】巨人のあしあと

疫病、天災、飢饉。抑圧、支配。どうにもできない「力」と出くわしたとき、人はどう向き合ってきたのでしょうか。「力」の権化・巨人の伝説が語り継がれている土地を訪ね、考えました。

 「大食い」は巨人のトレードマークだ。

 長崎県南島原市を訪ねたときに出会った「みそ五郎」は味噌(みそ)が大好物。1日に4斗(約72リットル)もなめていたと、地元の古老には伝わっていた。福岡県春日市には「はっけんさん」という大男が白米を食べ過ぎて村長ににらまれた、なんて話もある。

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島原半島に伝わる巨人「みそ五郎」。秋には祭りが開かれ、地元では人気者だ=2019年11月、長崎県南島原市、舞田正人撮影

 だが、人を食う巨人とは出会えていない。

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福岡県春日市に伝わる大男「はっけんさん」の布絵本の表紙

 ヨーロッパに行くと人食い巨人はいる。

進撃の巨人」は〈わたしの物語〉でもあった、とする平成生まれのサトリ世代の記者。諫山さんの印象的な言葉と、古くからの巨人の逸話を重ね合わせていきます。

 有名なのはイギリスの童話「ジャックと豆の木」だ。少年ジャックは豆の木をのぼって雲の上に行き、巨人の宝を盗んで帰ってくる。巨人は人食い鬼だから、ジャックは巨人が眠っている間に、しのびこむ。

 「黒い絵」として知られるス…

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