1頭を保護、40万頭を駆除 荒川のシカが問う人の矛盾

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小坪遊
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 約1年前の6月、東京都の荒川で1頭のシカが捕まった。殺処分を免れ、今では引き取り先の動物園で人気者になっている。一方、人里に出て来るシカは、農業や生態系への被害からみれば厄介者だ。1頭を保護する裏側で、全国で年間数十万頭が駆除されている。

 「ケープ、おいで」

 千葉県市原市の動物園「市原ぞうの国」で広報担当の佐々木麻衣さんが呼びかけると、柵の向こう側にシカが現れた。荒川で捕まったオスのシカは、エスケープ(逃げる)から「ケープ」と名付けられ、この春から公開されている。来園者が立ち止まり、「あのシカですか」「会いたかった」と喜びの声をあげる。

 来園のきっかけは昨年6月、荒川の河川敷でケープが捕獲されたところから始まる。前月の5月からたびたび目撃されていた。足立区の担当者は、第一印象を「大きくて速い。街中に出ることを考えると、絶対に放置できないと思った」と話す。区や警視庁は、交通事故などの危険性を懸念。最後は、サッカーゴールのネットを使って捕まえた。

 「殺処分するならお前が死ね」

 捕獲後に安楽死させる可能性が報じられると、区役所にはメールや電話での抗議や批判が殺到。3日間で約700件にのぼり、担当課の回線はパンクした。多くは「山に返せないのか」「自分が飼いたい」というような内容だったが、職員をしかりつけたり脅迫したりする内容も少なくなかったという。区の担当者は、「捕まえるより捕まえた後が大変だった」と振り返る。

 いくつかの飼育施設に断られ…

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