土地規制法案、神奈川の現場を歩く

田井中雅人
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 基地などの重要インフラ近くの土地建物の利用を規制する法案が国会で審議されている。何が問題となるのか。神奈川県内の米軍・自衛隊基地の監視活動を約30年続けている木元茂夫さん(66)=横浜市=に同行して考えた。

 横須賀市の京急田浦駅近く。昨年運用開始された自衛艦隊司令部の建物の周囲では、壁の建設工事が進んでいた。通りを挟んで目と鼻の先に住宅街が広がる。

 海上自衛隊の艦隊を指揮する重要拠点だ。重要施設周辺が対象とされる「注視区域」や「特別注視区域」に定められた場合は、周辺1キロ以内の住宅や土地所有者の様々な情報が、国に収集されることになる。

 木元さんは、仲間と手分けして横須賀基地厚木基地への艦船や航空機の出入りをチェックし、ネットで発信している。「新法は市民による監視活動も規制の対象となりかねない」と危機感を募らせる。

 この一帯には海上自衛隊や在日米海軍の施設が集中している。建物の隙間から、建設中の海自比与宇(ひよう)弾薬庫が見えた。米軍が使用する浦郷(うらごう)弾薬庫には桟橋が建設されようとしており、海自側の施設とつながりそうだという。

 「安保法制成立以降、自衛隊による米軍防護など、日米の軍事一体化は進んでいる。基地を監視している人がいなくなったら、何をやっているのかわからなくなる」と木元さん。

 高台にある安針台(あんじんだい)公園。草に覆われた柵ごしに海自と米海軍が隣り合う横須賀基地を見下ろせた。戦争体験者によれば、軍機保護法があった戦時中は船の撮影や写生が禁じられ、このあたりで立ち止まって船を見ているだけでも憲兵隊に追いかけられたという。

 横須賀市民法律事務所の呉東正彦弁護士も「平時からまるで戦時中のように、基地周辺での市民の活動が監視され制限される。憲法が保障する表現の自由に抵触する」と警鐘を鳴らす。

 法案は、基地など重要施設の「機能を阻害する行為に供する恐れがある」と認められる場合には、土地や建物の利用の中止勧告や命令を出すことができるとしている。しかし、機能を阻害する行為とはどのようなものか、政府は電波妨害や構造物の設置などごく一部を例示しただけで、具体的に示していない。

 呉東弁護士は「財産権を侵害する法律であり、市民にとってマイナスが大きい」とも強調する。

 「特別注視区域」では、不動産取引に事前届け出が義務づけられる。

 政府は国会で、基地周辺の土地などが外国人らに買収される事例を念頭に、安全保障上のリスクがあると主張してきた。横須賀では基地を見下ろせるようなタワーマンションもあるが、外国人が購入したり入居したりすることがこの法律のもとでどう扱われるかは不透明だ。「機能を阻害する行為に供する恐れがある」と認定された場合に、不服申し立ての手段も規定されていないという。

 こうした不透明さから、「円滑な不動産取引ができなくなり、不動産価格が下落する恐れもある」と呉東弁護士は指摘する。田井中雅人

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