「朝獲れ鮮魚」を特急直送 実証実験、まさかのトラブル

上保晃平
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 水揚げ日本一の千葉県の銚子漁港の「朝獲れ鮮魚」を特急列車で千葉駅に直送する――。そんな実証実験を11日、JR東日本千葉支社などが行った。港から魚はどう運ばれ、千葉市でどう売られるのか。その一部始終を見ようと、社会人1年目の男性記者(22)が魚とともに「直送」された。

 11日午前6時すぎ。千葉県銚子市の銚子漁港には雲一つない空が広がり、波もおだやかだった。さて、積み込まれるのはどんな魚たちか。

 だが、市場は存外静かで、漁から帰ってきた船も見当たらない。第3卸売市場にいた仲卸の男性は「入札は7時半から。船が入るのはこれから」と言った。あれ?

 取材をあきらめ、漁港から南西へ約3・5キロのJR銚子駅へ。JRの社員たちは、ちょっと困り顔だった。聞くと、今朝入港予定だった遠洋の大型漁船が別の港に入ってしまい、早朝の水揚げがなかったという。実証実験ならではのハプニングだ。

 「想定外の事態。水揚げの時間を踏まえ、今後はもう少し遅い便での輸送を検討したい」と、JR東日本千葉支社事業部企画・地域共創課の瀬野友基副課長は言った。急きょ、前日の10日に水揚げされた魚を用意したという。

 取材陣と魚が乗るのは、午前7時42分の銚子発、東京行きの「特急しおさい6号」だ。

 出発の約20分前、キンメダイ、スズキ、ヒラメ、マイワシ、メダイがそれぞれ入った発泡スチロールの箱(縦横35~55センチ、高さ21センチ)計5箱が駅のホームに運び込まれた。1箱約5キロの重さという。箱の近くにはなぜか猫が3匹。魚が入っていると察したのだろうか。

 通勤客らしい利用者らが列車に乗り込んだ後、箱は6号車の車両の隅にある貨物室に運び込まれた。以前は車内販売用の物品を置くために使っており、冷房も利くという。

 私は6号車の自由席へ。魚を置いた貨物室は閉め切られ、当然ながら魚の臭いはまったくしない。特急は定刻で銚子駅を出発。やることがなくなった。

 車中で思い出したのは、私が住む千葉市から早朝取材のために前泊した銚子市で、地元の先輩記者に教えられて食べた刺し身のことだ。

 入梅イワシ。梅雨の訪れの時期にとれ、1年で最も脂が乗るマイワシだという。広島県育ちの私にとって、イワシと言えば、瀬戸内海でとれる小ぶりのカタクチイワシだ。天ぷらや唐揚げにすることが多く、刺し身で食べたことはない。

 初体験の入梅イワシにはまず、臭みがないことに驚かされた。ショウガやわさびをつける必要もない。口に入れると甘みが広がり、溶けていく。

 出発から1時間20分。午前9時2分、特急は千葉駅に着いた。

 駅のホームは通勤客らでいっぱい。停車時間も1分程度だ。乗客が降りた後、JR社員たちが手際よく箱を降ろしていた。

 箱は、千葉駅に併設された商業施設「ペリエ千葉ペリチカ」へ。鮮魚店「魚力」で箱が開けられた。キンメダイやヒラメに勢いのある達筆の赤字で「銚子より直送」と札がついた。

 午前10時の開店直後に一番乗りで来店した、千葉市の図師三和子さん(81)は「以前来店したときに今回の試みがあると聞いた。新鮮が一番。帰って食べるのが楽しみ」と入梅イワシを買っていた。

 次回以降「朝獲れ」が実現すると、より新鮮な魚が千葉市内で購入できる。銚子で食べた入梅イワシのおいしさをまた思い出した。

 JR東日本によると、トラック輸送より速く、時間に正確に輸送できるのが列車輸送の強みだという。瀬野副課長は「今回見つかった課題やニーズを踏まえて実証実験を重ね、来年度に定期輸送を事業化することを目指したい。コロナで人の移動が減るなかで人と物をつなぎ、地域の交流を活性化させていけたら」と話した。(上保晃平)