語られ始めた生理 変わりつつある社会の意識

中井なつみ 及川綾子
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 日本で初めて生理用ナプキンが発売されて、今年で60年になります。女性のニーズに応えるために、生理用品は進化を続けてきました。近年では、「フェムテック」という言葉も知られるようになりました。これまで語られることが少なかった生理について、政治の世界でも政策課題として取り組む動きもあり、社会の意識は変わりつつあります。

不快を快へ 技術は進化 ユニ・チャーム 企画本部広報室 渡辺仁志さん

 日本で初めてのナプキンとされる「アンネナプキン」が発売された1961年、ユニ・チャームも創業しました。しかし、当初は建材の製造販売を行う会社で、転機となったのは、創業者である高原慶一朗の62年のアメリカ視察でした。

 サンフランシスコのスーパーで生理用品が山積みで置かれているのを見た高原は、大きな衝撃を受けたそうです。当時の日本では、生理用品は気軽に手に取れず、薬局などの奥の方に隠れるように置かれていることがほとんどでした。帰国後、高原は、「誰もが堂々と生理用品を手に取れるようになれば」と開発に着手しました。

 アンネナプキン登場以降、生理用品は、当事者の悩みにその時々の技術で寄り添い、めまぐるしい進化を続けています。

 当初の製品は分厚く、持ち運びのしづらさや装着時の違和感が課題でしたが、70年代後半、熱で素材を圧着できる技術を開発し、薄型のナプキンが登場しました。その後も、下着に貼り付けてずれにくくする「羽つき」のデザインが開発されたり、吸水量をアップさせ長時間に耐える「夜用」ができたり……。女性の生活スタイルの多様化に伴い、生理用品に求められる機能も増えました。いずれも、「もっとこうなってほしい」という当事者の声に応える形で、開発が進んできたのです。

 日本の生理用品は、世界でもトップクラスの品質で知られ、ユニ・チャームはこれまで、世界80以上の国や地域で生理用品を販売しています。

 最近は、日本で作ったものを売るだけでなく、現地のニーズにあった製品を提供できるよう、現地に生産拠点を構えることも重視しています。地域や気候によって、生理用品のニーズは様々で、例えば、暑い日が多い東南アジアでは、ひんやりとした肌触りになる「クールナプキン」が開発されました。この製品は、後に日本に逆輸入されました。

 また、最近では、ナプキンだけでなく、月経カップや吸水ショーツなど、海外発の製品が各国に展開されて、生理ケアの選択肢もより広がってきています。

 現在も、半年に一度ほど新商品やリニューアル品の開発に努めています。「生理にまつわる不快を快へ」、商品やサービスを提供し続けることによって、それぞれが自分らしく過ごせる社会につながると考えています。(中井なつみ)

悩み軽減 政策の力で 自民党フェムテック振興議員連盟事務局長 宮路拓馬さん

 議連の名前にもなっている「フェムテック」とは、女性の健康にかかわる悩みをIT(情報技術)など新しい技術で解決するサービスや商品の総称です。ナプキンがなくても、生理期間を過ごせる「吸水ショーツ」は一例です。

 フェムテックを知るきっかけになったのは昨年3月、オンライン診療で低用量ピルを処方している事業者から、診療にSNSを活用したいが国の指針が壁になっているという相談を受けたことです。

 必要があればルールを変えるのは立法府の役目ですが、ハードルも高いと感じたので、まずは議連を作って仲間と議論しようと決めました。

 話を聞くうちに、ハートも動かされました。ある研究によれば、女性がフルパフォーマンスを発揮できるのは、月のうち10日しかないそうで、アンフェアだと思ったんです。生理痛やPMS(月経前症候群)に加えて、そのつらさを軽減するために薬を服用して眠くなったり、倦怠(けんたい)感が出たりする人もいる。毎月のことが長年続く。女性活躍の推進というなら、女性の大変さを最大限軽減しなければフェアではないという考えが根底にあります。

 とはいえ、フェムテックという言葉を、永田町ではほぼ誰も知らないところからのスタート。野田聖子衆院議員に会長をお願いし、「女性のQOL(生活の質)だけをテーマにすると女性の問題と見られてしまう」として、新たな需要や市場を生み出す経済政策でもあると打ち出していこうと言われました。世界的にはフェムテック市場は5兆円規模になるとも言われています。

 昨年10月末に設立し、生理、妊娠・出産、更年期の三本柱を立て、まずは生理から議論をすることになりました。最初の参加者は野田聖子会長と僕とあと2、3人で、思い出すだけで涙が出ます。フィンテック(金融IT)の議連だと思って来た議員もいました。その後に増えて20人ほどになりました。3月、加藤勝信官房長官に議連としての提言を出しました。フェムテックについて、日本でも速やかに届けられるようにするために法律上の位置づけを明確にすることや、産官による検討チームを設けることなどです。フェムテック事業者に対する資金支援の充実も盛り込みました。

 最初は、生理と口にすることに、ためらいがなかったかといえば、正直ありました。妊娠・出産も、今は少子化対策として永田町で正面から取り上げられるようになりましたが、30年前にはそれすらタブー視されていたんですから。

 有権者にどう受け止められるだろうと、探り探りなところはありました。インフラ整備や農林水産業といったいわゆる自民党「ぽい」ものではないですからね。でも、杞憂(きゆう)でした。「多様な人が、持てる力を最大限発揮できる環境を整えていくための政策だ」と伝えたら、理解してくれます。伝え方次第ではないでしょうか。

 地元で幅広い年齢層の女性を集めてお茶会のようなスタイルで、フェムテックや性暴力の話をしたことがありました。皆さん、積極的に意見を言ってくれ、大学生と70、80代の女性がフェムテック商品を前にして話が盛り上がってもいました。みんな語りたいのだと感じた経験です。

 月経に伴う症状による労働損失は年間4911億円という試算もあります。更年期乳がん子宮頸(けい)がんといった疾患や不妊治療などで、仕事を続けたくても続けられなかったり、力を発揮できなかったりする女性に、フェムテックでその悩みを軽減できるすべがあるなら、容易にアクセスできる環境でなければならない。テクノロジーの力で少しでも変えられるなら、政治は後押しするべきです。

 フェムテックという言葉は、最後はなくなればいいと思っています。元々、海外で世間の耳目を集めるためにできた造語で、だからこそ日本で議論するようになりました。でもいつかそれが当たり前になって、その言葉が必要のない社会を目指したいです。(及川綾子)

学ぶこと=思いやり エムティーアイ ルナルナ副事業部長 那須理紗さん

 スマホに生理の開始日などを入力しておくことで、手軽に自身の月経周期などを自覚できるサービス「ルナルナ」。月経前後の不調に気付きやすくなったり、月経への準備ができたりするなどのメリットがあり、2000年のサービス提供開始以来、ダウンロード数(一部を除き無料)は1600万を超えました(20年11月時点)。中には親子2代で愛用してくださるかたも出てきています。自身の体のリズムを把握するきっかけとして、一定の役割を果たしてきたと自負しています。

 ただ、20年がたち、「自分の体を自分で管理しよう」と当事者に自己管理を求めるだけでは、問題を解決できないと考えるようになりました。月経に関して当事者が抱える様々な困りごとを解決するには、周囲にいる人たちの理解が不可欠だからです。月経について「知らない人」を減らす、社会の意識改革が次のターゲットではないかと。

 こうした思いから、昨年から女性(female)と教育(education)をかけた「femcation(フェムケーション)」というスローガンをかかげ、生理に対する知識の啓発活動に力を入れています。企業の研修で生理の基礎知識を伝えたり、当事者にピルなどの活用法をレクチャーしたり……。

 生理についてオープンに語ってこなかったこれまでの文化の中で、受講者の反応が心配でしたが、今のところ、男女ともに、好意的にとらえてもらっています。「知りたいことも、知りたいと言えない」ケースも多くあったのだと思います。

 生理は個人差が大きく、また生理のことを話したい人も、そうではない人もいると思います。「生理」というと身構えてしまう風潮も依然あります。しかし、生理について学ぶことは、シンプルに言うと、「相手を思いやる」ことです。知ることで身近な人の体調の変化に気づき、目の前に不調を抱えている人がいれば手を差し伸べる。それが、当たり前になることを願っています。(中井なつみ)

知識乏しい人も 語りにくさある 男女共通の課題

 「語られ始めた生理」の初回(6日付)を読んだ方から投稿をいただきました。一部を紹介します。

●同じ男性として残念

 「生理用品はそんなに高いものではないのに、貧困で買えないとは理解できない」という男性からの投稿を読み、同じ男性として残念でなりません。困っている人がこのような意見を見たり、実際に言われたりしたらどれだけ苦しむでしょうか。

 この方は、貧困状態にある人が切り詰めて生活していることが、想像できないのかもしれません。

 「貧困であっても、生活を見直すことが先決」とも書かれていましたが、そんなことは百も承知で、その上で生理用品を購入できずに困っている。食費すら削って生活している人が、どうして生理用品の購入にお金を回すことができるでしょうか。

 私たちが考えなくてはいけないのは、本気でこう考えている人がいるということです。現代の貧困、そして生理についての知識が乏しく知ろうとしない人がおそらく少なくないのでしょう。(鹿児島県 小宮正裕さん 55歳)

●公に生理の話、傷つく人もいる

 生理用品の費用について考えたり、男性にも生理を理解してもらえたりして、「隠さなくていいもの」になることはとても良いことだと思います。しかし、あまりに公に話すようになると、傷つく人もいるのではないかと感じます。実際、私はつらい思い出があります。

 私は中学卒業まで生理がありませんでした。中学時代に友達数人で生理の話になり、まだ初潮が来ていないと言えずに、適当に話を合わせてしまいました。

 その後、母親同士で話す機会があったようで、このことを友達の一人が知りました。私がうそをついていたとして、無視されるなどのいじめを受けました。

 生理がない人や初潮が遅い人もいるということ、それは恥ずかしくも悪いことでもないということも、広まって欲しいです。(兵庫県 女性 40代)

●「スマホ代削れ」、その通りだと思っていたが

 私は2年ほど前に閉経し、出産を経験していないので小学6年生から約45年間、毎月生理がありました。経血の量が多くて、婦人科から鉄剤の処方をされていました。

 量が多いために、夜用の長いナプキンを少しでも安く買えるようにと、薬局のチラシのチェックは欠かせませんでした。それは、生活費の一部として、当たり前でした。

 だから、「生理の貧困」という言葉が出始めてから、ネット上で、「スマホ代削れ」「スイーツとかファストフード食べる金があるなら、ナプキン買えるだろう」という意見を見ても、その通りだと感じていました。

 しかし、6日の紙面で30代男性の投稿が掲載されて、生理は男女ともに考える課題なんだとハッとしました。同じ生活水準の男女がいるとして、男性はスマホを持ち、ファストフードを食べられる。一方、女性は生理用品という必須の購入品があり同等ではないです。

 もし男性にも、毎月必ず買わないといけないものがあるなら、それを教えて欲しいとも思っています。男性にとっての貧困も、知りたいです。(神奈川県 女性 58歳)

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 生活が苦しく生理用品を買えない「生理の貧困」というキーワードが注目され、「生理」「月経」に関する話題を口にできる場面が増えたと感じる。ただ、一時のトレンドとして消費される危うさも感じる。

 2019年、生理用品への軽減税率導入を求める署名を始めた「#みんなの生理」の谷口歩実さんは、祖母が60年前に「生理の貧困」の当事者だったことを知ったのが活動のきっかけだった。新しい問題ではなく、当事者が声を上げられなかったことで、長く可視化されなかったのだ。

 長年の宿題に、社会がどう答えを出していくのか。再び当事者が押し黙ることのないように、継続して取材し、発信していきたい。(中井なつみ)

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アンケート「体の痛み、どこまで我慢しますか?」を実施中です。アンケート「共学か別学か、どちらがいいと思いますか?」は明日午後から始まります。いずれも、https://www.asahi.com/opinion/forum/です。