ネオニコ系農薬、八郎湖で高濃度検出 生態系影響に懸念

松村北斗
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 稲作などに広く使われる一方、ミツバチや生態系への影響を懸念する指摘もあるネオニコチノイド系農薬が、秋田県大潟村と周辺市町に広がる八郎湖や、湖に流入する河川の水から高い濃度で確認された。調査した秋田県立大の木口倫(おさむ)准教授(環境化学)らの研究グループが今月初旬、日本環境化学会の討論会でオンライン発表した。年間を通じた濃度変化や、湖にすむ魚や水生生物など生態系への影響の調査が今後の課題としている。

 八郎湖は八郎潟を干拓した後に残った水域で、八郎潟調整池、東部、西部承水路をあわせた総称。広さ約47平方キロ、水深は平均3メートル弱。中小20あまりの河川や、干拓地を通る水路から水が流れ込んでいる。

 木口准教授らは昨年6月と8月、湖の10地点と流れ込む主な河川の5カ所で、ネオニコ系など系統が異なる3グループの農薬の水中の濃度を調べた。

 その結果、ネオニコ系は5種類の農薬が検出された。なかでもジノテフランという農薬はどの場所でも検出された。

 検出濃度は、8月のジノテフランは、湖では中央値で水1リットルあたり1300ナノグラム(ナノは10億分の1)、河川では同600ナノグラムだった。とくに、水田や畑が広がる干拓地内から八郎湖への排水などを行う用・排水機場とその近くで、濃度が1400~2300ナノグラムと高かった。干拓地内から湖へ流れ出る農薬の影響が大きいことが示唆される、と木口准教授は指摘する。

 ほかのネオニコ系農薬の濃度はジノテフランより1桁か2桁低かった。

 ネオニコ系農薬は水溶性で、昆虫にとくに毒性を発揮する性質があるため、従来の農薬より人間を含む哺乳類や鳥類、爬虫(はちゅう)類への安全性は高いとされる。効果も長く続く。県によると、たとえばジノテフランは稲作のカメムシ除去剤として散布されるほか、果樹、野菜にも幅広く使われている。

 一方、ネオニコ系農薬はミツバチの大量失踪を招いた可能性が指摘され、欧米では規制が強化された。また、島根県宍道湖産業技術総合研究所や東京大のグループが調査し、ネオニコ系農薬とウナギやワカサギの漁獲量減少に関連があったと推察する論文を2019年、科学誌サイエンスに発表した。論文はネオニコ系農薬が使われ始めた1993年以降、動物プランクトンが大幅に減り、ワカサギの漁獲量が1割以下に急減したと指摘している。

 木口准教授によると、八郎湖での今回の調査で検出されたネオニコ系農薬の濃度は、産総研などの同じ研究グループが18年度に宍道湖で調べた時より1桁から3桁高いという。

 一方で、秋田県の統計などによると、八郎湖での漁獲量は、ワカサギは1999年に273トン、昨年は198トン、シラウオは99年は10トン、昨年17トンなど、増減しつつも捕れ続けている。

 木口准教授は、「宍道湖ではネオニコ系農薬でワカサギが捕れなくなった可能性が指摘されているが、八郎湖では捕れ続けている。ネオニコ農薬が生態系にどう影響しているのか、濃度と生態系の両面からしっかりと調べていく必要がある」と指摘する。そのうえで「農家の減少や高齢化が進むなか、農薬を使わないと水稲栽培が成り立たない実情がある。農薬使用で得られる利点と、生態系保全とのバランスをどう維持していくかに、この研究が役立つのではないか」と話す。

 木口准教授らのグループは今年度、年間を通じた農薬の濃度変化を調べている。濃度が高い場所や時期をより詳しくつかんだうえで、生態系への影響を調べたいという。

     ◇

 ネオニコ系農薬については欧米で規制の動きが出ている。EUは2013年、イミダクロプリドなど3種類のネオニコ系農薬について、ミツバチの被害につながる方法での使用を制限。その後も規制を強化している。米国は15年、4種類のネオニコ系農薬について、新たな使用方法(対象作物の拡大など)を認めないことにした。

 日本では、1992年以降、7種類のネオニコ系農薬が審査、登録されている。ジノテフランは02年の登録だ。「ネオニコ系農薬と生態系影響の因果関係ははっきりしていない」と環境省農薬環境管理室は説明する。ただ、従来の農薬の登録時の試験対象の生物ではリスクを過小評価する可能性があるとして、試験の対象に、影響が大きく出るとされるユスリカの幼虫を16年度に追加し、昨年には鳥類や野生のハナバチ類も追加した。

 また、農薬取締法の改正に伴う農薬の再評価が今年度から行われる。追加された試験対象も含め、ジノテフランを含むネオニコ系農薬5種類は今年度中に再評価を行う。「科学的評価の結果を踏まえて必要があれば規制などを検討する」と農水省農薬対策室の担当者は話す。(松村北斗)

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