諦めの感覚、それが最大の敵 脅かされる民主主義の理念

有料会員記事

聞き手・高久潤
[PR]

 「民主主義の危機」という言葉を聞いて、何を思い浮かべますか。ポピュリズムの広がり、今の日本政治の現状、権威主義体制の台頭、はたまた巨大プラットフォーム企業の影響の高まり……。様々な動きから、とかく危機が語られる民主主義ですが、結局その本質とは何なのか? 本当に危機なのか? 様々な「?」を政治学者の宇野重規さんに聞きました。冒頭では、昨秋、宇野さんが菅義偉首相から会員への任命を拒否された日本学術会議問題と、民主主義との関係を語っています。

私個人の任命拒否よりも、理由を説明しなかったことが問題 宇野重規さん(政治学者)

 ――昨年10月、日本学術会議の会員に推薦されたのに菅義偉首相から任命を拒否されました。当時発表したコメントが気になっています。

 「コメント前半で、会員への推薦については感謝しているが、任命されなかったことについては特に申し上げることはないと述べました。考えは今も変わりません。その上で、後半では自由主義思想家ミルの言論の自由論を引き、私は日本の民主主義の可能性を信じる、と続けました」

写真・図版
政治学者の宇野重規さん=2021年6月9日、川崎市中原区、遠藤啓生撮影

 1967年生まれ。東京大学社会科学研究所副所長。専門は政治思想史・政治哲学。著書に「民主主義とは何か」(講談社現代新書)「保守主義とは何か」(中公新書)「民主主義を信じる」(青土社)など。

 ――当時、憲法が定める学問の自由、または日本学術会議法の問題として批判されました。民主主義とつながりますか。

 「政権が判断の理由を一切説明しなかったことが問題だと考えました。各人が自分の判断や意見の理由を説明するのは、民主主義が機能するための基本的な条件だからです。私個人の任命拒否が妥当かどうかとは別問題です」

 「なぜそう考えるか。どんな判断・意見であっても、まずはその理由が示されることで、議論が始まります。今回の問題であれば、政権が理由を明らかにして初めて、世論の側から疑問や批判も生まれる。政権側もさらに応答していく。こうした意見の応酬こそが、民主主義の基盤なのです」

 「民主主義は短期的には誤った結論を導き出すこともあります。ただ、多様な意見が示され続ける社会であれば、振り子のように修正がきく。一方、今回のように『理由の提示』がない状況下では、健全な論争ではなく、臆測と忖度(そんたく)が誘発される」

 「実際に『あれが理由では』『いやいや、これが本当の理由』といった話が出ました。結果的に、自由な意見表明が何となく自粛されていく。学問の自律性や学問の自由は、それ自体が重要であることは言うまでもありませんが、同時にそれは民主主義の問題でもあると言うべきだと考えました。コメントを求められた時、前半で終えてもよかったのですが、後半を言わなければと思った記憶があります」

 ――ただ民主主義は、最近あまり信頼されていないのではありませんか。書店に行くと、民主主義の危機を語る本がたくさん積まれています。

 「民主主義が正しいのか確信を持てない人が増えているのは事実です。世界価値観調査などでは、若者ほど、現代の代表制民主主義に対する信頼度が低いことが明らかになっています。日本国内でも、同じ傾向が見られます」

 「歴史をひもとけば、冷戦後は自由民主主義が最終的に勝利したと語られました。しかし、そうはならなかった。経済が発展すれば民主化すると言われた時期もありましたが、今の中国を見ればそれは自明ではありません。勝利したはずの自由民主主義の代表・米国もリーマン・ショック以降、むしろ不調と不安定さが目立つようになっています。こうした経緯も影響しているのでしょう」

 ――ポピュリズムや権威主義体制の台頭も「危機」と言われます。警鐘を鳴らすのは重要ですが、常に「危機だ」と言われてしまうと釈然としない部分があります。

記事後半では、宇野さんに民主主義の危機について聞いています。また、IT化、コロナ禍といった現代社会が抱える課題や環境変化で民主主義がどう変わっていくのかについても論じられています。

 「『オオカミ少年』のように…

この記事は有料会員記事です。残り3977文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【10/25まで】スタンダードコース(月額1,980円)が今なら2カ月間無料!詳しくはこちら