酒蔵来てもお酒が飲めない…「悪者扱い残念」苦境の蔵元

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杉山圭子
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 東京都青梅市の西部、名水の郷で知られる御岳渓谷沿いに立つ「小澤酒造」の酒蔵前はひっそりとしていた。日本酒「澤乃井」を醸造する1702年創業の老舗酒蔵。敷地内には「きき酒処」などが人気の庭園や料亭、和食レストランもあるが、3回目の緊急事態宣言で飲食店での酒類提供が禁止され、自社製の酒であってもその場で飲んでもらうことはできなくなった。酒蔵見学も休止が続いている。

 「例年ならたくさんの人が来てくれて、酒蔵の雰囲気を感じながらきき酒などを楽しんでもらえる季節。今年はまったく違う光景になった」。小澤幹夫社長(36)はそう残念がる。

 小澤社長は2019年1月、現会長の父・順一郎さん(67)の後を継ぎ、23代目となった。当時、東京五輪パラリンピックを翌年に控え、海外展開に特に力を注いできた。米国やカナダ、香港、台湾、シンガポールなどの業者と関係を築き、売り上げに占める輸出の割合は従来の倍の約5%に。酒蔵を訪れる海外客の割合も約10%にまで伸び、手応えを感じ始めた矢先、コロナ禍に見舞われた。

 以降の出荷量は従来の8割足らず。今春にかけて仕込んだ酒の量は、五輪特需を見込んだ前季に比べると3~4割少なかった。「海外から来られないのは仕方ない。ですが、国内のお客さんにもお酒が出せなくなるとは思いませんでした」

 同じく酒蔵の敷地内でレストランなどを運営する福生市の老舗「石川酒造」の石川彌八郎社長(57)も「酒蔵へ行ってお酒が飲めないのは、山や海へ行って、山菜料理や海の幸が食べられないのと同じ。宣言の影響は大きい」と現状を憂う。

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 「コロナ前の期待が大きかっただけに、ショックは計り知れません」。立川市にある都酒造組合の事務局で、岩田茂事務局長(71)も頭を抱えていた。隣接する直営店には、昨夏開催されるはずだった東京五輪パラリンピックで海外客らに「東京の地酒」をアピールしようとつくった商品が並ぶ。「東京酒造」の統一ラベルをつけた清酒の5本セットは昨年1月、組合員の有志5社とともに完成させた。「東京にも名水があり、こんなにおいしいお酒ができるというのを世界の人に知ってもらう絶好のチャンスだった。その機会が失われたうえに、お酒があちこちで悪者扱いされている現状は悲しいことです」

 組合に加盟する蔵元9社のうち8社は多摩地域にあり、いずれも中小の規模だ。大手がつくるパック酒などは「宅飲み」需要で売り上げを伸ばしているが、都内産は飲食店へ届けられる割合が高く、休業や時短営業の店が増えると大きな影響を受けやすい。

 昨年の国内出荷量の落ち込みは全国では前年比10%減(日本酒造組合中央会調べ)だったが、「都内の蔵元は総じて2~3割は減った。購入した原料の酒米を使い切れずに困っている蔵元も少なくない」と岩田事務局長は話す。

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