河川氾濫しても救助こない? 命守るには「水平避難」を

抜井規泰
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 「あなたが救助される順番は、回ってこない。避難指示が出たらどこに逃げるのか、自分の避難先を常に考えていてほしい」。東京都東部地区の防災担当者たちは、異口同音にこう語る。

 巨大河川の荒川や江戸川の氾濫(はんらん)、高潮を念頭に置いた言葉だ。2019年10月に関東を直撃した台風19号では危機的な状況となり、荒川と隅田川を分離する岩淵水門(北区)で氾濫(はんらん)危険水位まで53センチに迫った。

 都の東部地区は、高度成長期の地盤沈下で海抜ゼロメートル地帯が広がる。墨田、江東、足立、葛飾、江戸川の「江東5区」が共同で作ったハザードマップは、ほぼ全域が水没を示す赤やピンク色に染まる。

 最悪の水害が起きた場合、2週間は水が引かない。墨田区は、ほぼ全域が浸水する。最も低地にある墨田4、5丁目の水深は5~10メートルに達すると試算されている。水をくみ上げるポンプがある施設も水没するとみられ、江戸川区は都に施設の増強を要望するが、完了していない。

 5区の人口は計約260万人。自衛隊、警察、消防がフル稼働しても、救助できるのは1日最大2万人とされる。江戸川区の本多吉成・防災危機管理課統括課長は「水害時、ヘリコプターで救助される被災者の姿が報じられる。あれを見ると自分も助けてもらえると思ってしまう。しかし…」。自分の順番は回ってこないと考えるのが現実的だ。

 水害対策は、水害を起こさない「河川の強靱(きょうじん)化」と、それでも水害が起きた時の避難という両面がある。

 強靱化対策では、国を中心に新たな遊水池の造成や、荒川最大の弱点とされる足立区葛飾区を結ぶ京成電鉄荒川橋梁(きょうりょう)の対策が進む。

「水平避難が現実的」

 命を守る最後の手段として、確実に避難するにはどうすればいいのか。

 水害時の避難は、高層階に逃げる「垂直避難」と、その場を離れて高台に逃げる「水平避難」の二つがあるが、墨田区の山中淳一・防災課長は「水が引かない2週間、ずっと垂直避難を続けるのは難しい。水平避難が現実的だ」と語る。

 100万人単位の人たちが確実に避難するには、都と区など、行政側の迅速な危険周知が欠かせない。

 大規模水害の危機が迫ると、5区では72時間前に共同で、想定される災害の検討を開始。48時間前に5区以外への避難を呼びかける。24時間前には、避難を指示するが、この段階になると大渋滞に陥ることが予想される。足が不自由な人以外は車での避難を控えるよう求めることになる。時間的な余裕がなくなる9時間前からは、緊急の域内垂直避難の発令に切り替える。

 江戸川区では、ホテルなどに避難する際の宿泊費補助も予算化したほか、小中学校などにボート100艇を配備した。救助用だが、「ボートを目にすることで、常に危機意識を持ってもらいたい」(防災担当者)という狙いがある。

 5区はいま、避難先の受け入れ先として、文京区内の大学などに働きかけを続けている。担当者は「他区の話ではなく、都全体の問題として受け止め、協力してもらいたい」と語る。(抜井規泰)