伝説のパラ選手が語る 日本で体験した「最高の味」 

ロンドン=遠田寛生
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 1964年東京パラリンピックで金メダルに輝き、パラ通算10個の金メダルを獲得しているキャズ・ウォルトンさん(74)=英=が朝日新聞のインタビューに応じた。パラ界の「生きる伝説」が語る大会の意義や魅力とは。

 数々の壁を打ち破ってきたウォルトンさんは笑いながら言う。

 「自分を先駆者と思ったことはない。スポーツは呼吸みたいなもので、大好きなことをしていただけ」

 生まれつき脊髄(せきずい)の障害を患っていた。何度も手術を受けた。

 スポーツと出会ったのは11、12歳のころ。車いす生活を強いられ、母親にリハビリを兼ねて水泳に連れていかれた。裕福な家庭ではなかったが、両親は何に対しても背中を押してくれた。「自分を信じる力をくれた」と感謝する。

東京パラとの不思議な縁

 パラリンピックとの縁は突然始まった。1964年の東京大会。約3週間前に体調不良で選手に欠員が出て、代替選手として行くことが決まった。

 英国の選手団では、3~4の複数種目をこなすことが求められた。経済的な理由から、連れて行ける人数が限られていたからだ。ウォルトンさんの初めの種目は不慣れだった円盤投げと砲丸投げ。「自分で言うのもあれだけど、とてもひどかった」と笑う。

 それでも非凡な能力を見せつけた。車いす陸上のスラロームとダッシュ種目で金メダル。英国史上初めて、パラでトラック種目を制した。

 その東京大会では、競技外で印象的な出来事が二つあった。

忘れられない最高の味

 一つは「味」だ。日本に到着して間もなく、疲れていた体を癒やしてくれたのが、選手村で口にしたスープだった。「多分チキンスープ。温かくて本当に落ち着けた。人生最高の味。今も忘れられない」

 もう一つは「景色」だ。11月のある日、バスに揺られてみんなで富士山を見に行った。途中の登り道では車輪が落ちないか不安にもなったが、到着地で待っていたのは「最高に鮮やかな富士山」だったという。

 ウォルトンさんは、その後も活躍し、現役生活は約30年にも及んだ。建設系の会社の受付や電気通信会社の勤務経験もあるなか、引退後は英国パラリンピック委員会で働き、後進のために力を注いできた。

変わった環境、人の見方

 長きにわたってパラリンピックと関わってきて感じるのは、大会が与える影響力の大きさだ。

 昔は障害者がスポーツをする環境は整っていなかった。自身は運よく国立の施設に通えたものの、車いすでは更衣室には入れなかった。水着に着替えてから出かけたり、トイレの個室で着替えたりした。そのトイレも車いすは通れないため、地面をはって個室に入ったこともあるという。

 パラリンピックで選手が活躍することでバリアフリーが議論になり、改善につながった。通った施設も今では立派な更衣室やエレベーターがついた。

 強い追い風が吹いたのが、地元英国で開催された2012年ロンドン大会だ。障害を持つ人に対する世間の見る目が大きく変わった。

 「腕や足など体の一部が自由に動かないけど、私たちも健常者と同じ人間。希望や愛などの感情は持っている。昔は障害者と接すると緊張し、付き合い方が分からずに背を向ける人が多かった。今は怖さが取り除かれつつあり、障害について普通に話し合えるようになってきている」

 その事実は報道や話題の変化からも見てとれる。

 「ロンドン大会から、選手たちは障害の話題ではなく、競技の成績が注目されるようになった。健常者と同じで、活躍できなければ批判される。アスリートとして扱われだした。とてつもない進歩だ」

 新型コロナウイルスの影響で今夏の東京大会は見通せない。ただ、新たなメッセージの発信を期待する。「パラリンピックは世界中の障害者の人生に、いいインパクトを与えられる。競う姿だけではなく選手が大会に集まり、その後自分たちの国・地域へと帰ったとき、また変化が生まれ始めると思う」(ロンドン=遠田寛生)

 キャズ・ウォルトン(Caz Walton) 1947年生まれ、旧姓キャロル・ブライアント。元英国代表のパラリンピック選手で、初出場した64年東京大会では陸上2種目で金メダル。92年バルセロナ大会まで出場し、獲得したメダルは、陸上、フェンシング、水泳、卓球で計17個。

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 8月24日に開幕する東京パラリンピック日本財団パラリンピックサポートセンター(山脇康会長)は、パラリンピックやパラスポーツをきっかけとした「ダイバーシティー(多様性)&インクルージョン(包括・共生)」社会実現への可能性を探るオンラインイベント「THE INNOVATION 2012LONDON >>> 2021TOKYO」(プロジェクトパートナー・イギリスパラリンピック委員会/メディアパートナー・朝日新聞社)を開催します。2012年ロンドン・パラリンピックの事例を参考に「大会」「人」「メディア」「教育」の四つのテーマについて掘り下げます。

 視聴は無料。募集ページ(https://www.parasapo-innovation.com/別ウインドウで開きます)で事前にお申し込みください。