「飲む村」愛してゲストハウス開業へ 豪雨を機に移住
3年前の西日本豪雨がきっかけで、愛媛県西予市野村町に移住した女性がいる。復興支援活動に取り組む中で独特の宴会文化に出会い、地域に人を呼び込む切り札にしたいと自分なりの構想を練ってきた。空き家だった民家を借りられたことで念願がかない、飲んだ後でも気軽に泊まれる宿泊施設がこの秋にオープンする。
神奈川県藤沢市出身のシーバース玲名さん(27)。2019年秋から西予市の地域おこし協力隊員になった。前年7月の西日本豪雨の際、野村ダム放流後の肱川の氾濫(はんらん)で大きな被害を受けた野村町に移り住み、復興支援に携わっている。
西日本豪雨が発生するまで愛媛との縁はほとんどなかった。豪雨の前年に訪れた香川県の自動車教習所で愛媛在住の知人ができたことで、被害が人ごとと思えなかったという。広告会社を退職した直後だったことも手伝い、豪雨から10日後には大学時代につながりのあった非政府組織(NGO)の契約職員として愛媛に来ていた。
被災者への支援物資の配達や困りごと相談などで県内各地を訪ねる中で、シーバースさんにとってとりわけ印象的だったのが野村町の人たちだった。よそ者の自分を気軽に飲み会に誘ってくれる懐の深さが心地よく、「まさか自分の親世代の人たちと次々に友達になると思わなかった」と振り返る。
地元の人が「飲む村、野村」と自慢する宴会での習わしにも魅せられた。「サシアイ」と呼ばれる独特の酒の飲み方で、一つのグラスでビールや清酒を交互に飲み干して親睦を深めるものだ。シーバースさんもサシアイの楽しさに開眼し、「サシアイ文化を観光資源にできないか」と考え出した。
地元の人たちに相談する中で、見えてきた課題が町外の飲み客には必須となる宿泊施設の少なさ。自分でゲストハウスを設ける案を考えたものの、「空き家募集」のチラシを貼ることから始めた物件探しは、かなりてこずった。最後は地域で培ってきた人の縁が生き、ようやく、民家を借りることができたという。
宿泊施設を開くのは、居酒屋などの飲食店が集まる野村町の商店街から歩いて10分ほどの木造平屋建ての民家。建物は改修工事中で、9月ごろには宿泊棟とバーを備えたゲストハウスに生まれ変わる。
シーバースさんは「サシアイを目当てに野村に来てもらい、ここに泊まってもらうのが一つのゴール」。ゲストハウスの完成を心待ちにしている。(藤家秀一)
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