「役立つ情報を」コメントプラス、長野智子さん意気込み

聞き手・伊藤大地
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 朝日新聞デジタルの新機能「コメントプラス」が22日、専門的な知見や豊かな視点をもつ「コメンテーター」27人を社外から迎え、本格スタートしました。最新のニュースや話題を伝える記事とあわせ、コメンテーターによる投稿を読むことができる新サービスです。

 キャスターでジャーナリスト長野智子さんは、朝日新聞デジタルで始まったコメントプラスに、専門家の一人として参加しています。日々のニュースにどう接すればいいのか。同じネットメディアで同僚として働いた経験もある伊藤大地・朝日新聞デジタル編集長が聞きました。

 ――長野さんは、ハフポスト日本版の編集主幹を4月末に退任されました。デジタルとは、どんな風に向き合っていますか。

 今、メインの情報発信はネットです。テレビや新聞など従来の報道とデジタルとの一番の違いはやはりスピードですね。ハフポストはとりわけ速い。どのメディアにもないスピード感、それが最高に楽しかったです。

 最初にそれを感じたのは編集主幹に就任した直後の2014年2月。山梨県の大豪雪で大きな被害が出たときです。ハフポストはSNSで孤立集落の被災者の声をまとめ、いち早く状況を伝えました。

 ところが私が担当するテレビの生放送では記者が現地にたどり着けず、予定通り、ソチ五輪の報道を続けるしかなかった。テレビではその後、取材対象を広げたり、問題を掘り下げたりして展開しました。どちらが良いかではなく、両方大事だと思っています。

 この春からは初めてジャーナリストの肩書で取材していますが、国連UNHCR協会(国連難民高等弁務官事務所を支える日本の支援窓口)の報道ディレクターとしても活動しています。先日、国際オリンピック委員会(IOC)から、29人の難民選手団が発表されました。日本の方に難民への理解を深めてもらうイベントを開催したり、来日する選手の紹介や報道を支援したりしています。

 ――普段、SNSはどう活用していますか。

 国連の人道支援や難民という重いテーマはなかなか届きにくい。視聴率を重視するテレビではなかなか扱ってくれません。私たちは難民、特に子どもたちの命を少しでも多く助けたい。それにはまず個々の人に難民の状況を知ってもらう必要があります。

 国レベルの支援も大切ですが、一人一人が100円を出すのも血の通った大切な支援。若い世代に伝えるため、SNSは強い味方になる。私がケニアやヨルダンの難民キャンプに行ったときには、ツイッターフェイスブックで動画を発信しました。難民支援の音楽イベントや映画祭は広く拡散され、大勢の人が集まりました。

 ――ハフポストでご一緒したとき、長野さんは世界の中の日本という視点やマイノリティー問題を扱う「軸」を打ち出されました。先見の明があると感じました。

 シリアなどで何が起きているのか、世界の関心事が日本では報じられないというようなことが頻繁に起きていたんです。日本は国内視聴者の関心に偏りがちです。全世界に展開するハフポストの強みを生かせば、ニーズは必ずあると確信していました。

 ――トランプ氏の支持者らが連邦議会議事堂を襲撃した事件のように、ネットの議論があらぬ方向に行く事態も起きています。私たちはどう対処すべきでしょうか。

 SNSの性質上、こうなるだろうと思っていました。今はジャーナリズムを学んでいない人が発信する時代。約20年前までは専門性や取材能力をもった「職人」による報道でした。私はそれに憧れて勉強しましたが、誰でもネットで発信できるならスキルは何一つ必要ない。

 だから事実確認やリテラシーのない状況が世界中で生まれていますよね。情報過多の中で、受け手も真実より自分が心地よい情報を求めていく。

 ただ、こんな時代だからジャーナリストが変わるべきだとは思いません。私は報道の世界で身につけたやり方を貫きたい。

 出所不明のニュースやデマが出回ったとき、「この問題に関して、長野智子っていう人は何を書いているのかな」と、読者の参考になる記者の一人になれたらうれしいと思います。

 あとは専門性のある報道人や研究者が協力して、第三者機関をつくるのも一案です。データや事実関係を整理・検証する試みが日本にもあるといい。

 ――水が無料で飲めるようにニュースもタダで読める今、有料記事に価値を感じてもらうにはどうすべきか。ミネラルウォーターには製造工程や成分が書かれていますよね。新聞社も、これまで伝えてこなかった取材手法や記事化の過程について、丁寧な説明が必要なのだろうと感じます。

 昔は○○新聞といった会社の名前で信用されましたが、今は一人一人の記者の信頼性や日々の発信内容も大事。一人一人の記者の熱量や力量が、今ほど試される時代はないですね。

 ――国際問題や難民問題、大事だけど読まれにくいテーマにどうすれば関心を持ってもらえるか、ずっと考えています。どんな工夫をされてきましたか。

 一生懸命報じても伝わらないこと、多いですよね。私にとっても女性の国会議員が増えない問題がそうです。日本は世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」が毎年120位前後。長年伝え続けてきたのに全く変わらず、ずっと不満でした。

 それでやり方を変えてみたのが、5月に自ら立ち上げた超党派の女性議員による「クオータ制実現に向けての勉強会」です。ジャーナリスト田原総一朗さんに座長を頼み、私が事務局長で月1回開いています。クオータ制が進まない障壁は何か。外からだけでなく、中に入って伝えようと思ったんです。

 ――最後に。ご参加いただく朝デジの新機能「コメントプラス」への期待と意気込みを教えてください。

 コメントプラスは有料会員向けのサービスですよね。最近だと、朝日新聞の特報がきっかけでネットでも話題になった平井卓也デジタル改革相の「脅し」発言問題。日ごろ取材している記者が「普段の平井大臣はこんな話し方をする人だとか、こういう考えの持ち主だ」という情報をコメントしてくれるといい。

 記事の理解に役立つ知識や背景、追加情報を付け加えてほしい。コメントプラスにはそんな役割を期待します。

 コメントプラスではツイッターで書くような記事の感想にとどまらず、別の角度からニュースを見られるような、自分の実体験や取材体験を書こうと思います。

 私自身、取材した中で発信しきれないことがいっぱいある。例えば、クオータ制勉強会の裏話を有料会員限定で書いてみるとか。読んだ方が一つ二つ得したと思える情報を書き込みたいと思います。

 ――すごく楽しみです。本の後ろにある解説のような、中身の見方を変える、広い読み方ができるようなサービスにしたいと考えています。積極的な発信をどうぞよろしくお願いします。(聞き手・伊藤大地)

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 ながの・ともこ 米ニュージャージー州生まれ。1985年に上智大学卒業後、アナウンサーとしてフジテレビに入社。その後フリーに。99年ニューヨーク大学大学院修士課程を修了。2000年にテレビ朝日系「ザ・スクープ」のキャスターに起用され帰国。「朝まで生テレビ!」「報道ステーション」などを経て、現在はジャーナリストとして活動する傍ら国連UNHCR協会の報道ディレクターも務める。

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 いとう・だいち 1978年、神奈川県生まれ。2001年にインプレスに入社し、記者として携帯電話業界やネット業界を取材。13年からハフポスト日本版でデータを用いた報道に携わり、BuzzFeed Japan副編集長や同Entertainment編集長を務めた。20年11月に朝日新聞に入社。21年4月から朝日新聞デジタル編集長。