永田町から空爆の現場へ これが「天井のない監獄」か

有料会員記事

清宮涼
[PR]

 気温は30度近い。2時間近くかけて検問所を越え、目の前に広がるターコイズブルーの地中海にしばらく見入った。4日前まで、昼夜を問わず空爆が続いていたとは信じられない静けさだった。

ワールドインサイト

世界各地に根を張る特派員が、歩いて、見て、聞いて、考えました。ひと味違う視点で国際ニュースを切り取ります。ニュースレター「ワールドインサイト」は、有料会員の方にオリジナル記事をメールで先行してお届けします。初回の6月19日配信分をWEB版でお伝えします。

 まもなく、目に入った光景に息をのんだ。数百メートル四方の敷地で建物が崩れ落ち、壁の破片が折り重なる。空爆の標的となったことは一目瞭然だ。建物にはスーパーや住居が入っていたという。土ぼこりが舞い、住民のものだろう、洋服や本も落ちていた。

 馬に荷車を引かせ、10歳ほどの少年がやってきた。黙ってバケツにがれきを集め、荷台に載せる。建設業者に売り、生活の足しにするのだろうか。カメラを向けると、少年にじっとにらまれたように感じた。私の姿は、少年の目に、どう映っただろうか――。

 パレスチナ自治区ガザ地区の武装勢力とイスラエルの武力衝突は5月10日から21日まで続いた。私がガザに入ったのは、停戦から4日目だった。

 「天井のない監獄」とも呼ばれるガザ地区。種子島より小さい365平方キロメートルに、約200万人が暮らす。1967年の第3次中東戦争以降、イスラエルの占領下に置かれ、94年からはパレスチナ自治政府が統治したが、2007年にイスラム組織ハマスが武力制圧し、実質的な行政機能を担うようになった。ハマスをテロ組織に指定するイスラエルはガザ地区を経済封鎖した。壁で囲まれ、失業率は5割近く、人口の約半数が国連の食糧支援を受けている。検問所から入れる外国人は、外交官やジャーナリスト、援助関係者らに限られている。

 今回の衝突で、ガザ地区では250人以上が犠牲になった。空爆が続く間はイスラエルが検問所を閉じ、私はエルサレムから電話などで取材した。停戦後は、情勢は落ち着いているとガザ在住のスタッフから聞いていたが、不安はあった。武力衝突やその直後の現場に取材で行ったことはない。「がれきの下に不発弾があるかもしれない。踏まないように」。先輩特派員の助言に、さらに緊張した。

 4カ月前まで、私にとっては「永田町」が取材の場だった。政治部で自民党や国会取材を担当し、国会内を走り回っていた。中東での勤務を希望していたが、赴任後すぐに情勢が悪化して、「紛争地」に行くことになるとは予想していなかった。

 ガザ地区には、武力衝突前に2度、訪れていた。ガザ市の中心部には商店やレストランが並ぶ。車も多く、ロバに荷車を引かせた大人や子どもたちもひっきりなしに通る。レストランでアーモンド入りのピラフや羊肉の串焼き、レモネードに舌鼓を打った。

 停戦後にその近くを訪れると、姿は一変していた。周辺では最も激しい空爆があり、一夜にして42人が死亡。レストランは無事だったが、近くの道路には直径50メートル近い大きな穴が開いた。亡くなった人たちの名前が道路脇に張り出されていた。まさか、この地区が壊されるとは。イスラエルとの衝突が起きれば、一瞬にして生活や命まで奪われる。目の前の光景を現実として受け止めきれなかった。

 近くで生まれ育った会社経営者のムハンマド・シハブさん(65)は自宅は無事だったが、隣の建物が空爆で全壊した。「静かで治安のいい場所で、一度も狙われたことはなかった。市民を巻き込むべきではない」と憤った。空爆は商業ビルや住居用ビル、難民キャンプまで標的にした。イスラエル軍は、ハマスなどの「軍事拠点」を標的とし、ハマスが市民を「人間の盾」としている、と言う。事前の警告で、市民の犠牲を最小限にとどめた、とも主張する。

 本当なのか。被害を受けた地域を歩くと、住民たちは「ここは軍事拠点ではない」と口をそろえた。警告を受けて住民らが避難した建物もあったが、事前の警告はなかった、との証言も多かった。

 一方、イスラエル側からは見え方がまったく違っていた。

 武力衝突が始まって2日目、私はガザ地区との境界から約10キロ、イスラエル南部アシュケロンを訪れていた。地中海沿いに住宅街が広がる街に前日、ガザ地区からのロケット弾が撃ち込まれていた。

 被害を受けた住宅の玄関前で取材しているときだ。ドドン、ドドン、バン――。あらゆる爆音が襲ってきた。そう遠くない場所で交戦しているのだとわかる。サイレンが鳴り響く。一緒に取材していた海外のジャーナリストたちの見よう見まねで、地面にうずくまり、手で頭を抱え込んだ。ロケット弾から身を守るための基本姿勢だという。

 空を見上げると、細い雲が何…

この記事は有料会員記事有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。