水道運営権の売却 何が変わる?影響は? 宮城県
宮城県議会で23日、6月定例会の一般質問が始まった。焦点の一つが、水道事業の運営権を民間に売却する議案。上下水道や工業用水道の運営を20年間、一括して民間が担う全国初の試みで、県は2022年4月の運用開始を目指す。水質低下などを懸念する市民団体は反発しており、議会でも論戦となっている。
「民の力を最大限に活用しながら、持続可能な水道サービスの提供を目指す」
村井嘉浩知事は15日の本会議で事業に対する意気込みを語った。
県が導入を目指す仕組みは「コンセッション方式」と呼ばれ、自治体が公共施設の所有権を持ったまま、運営権を民間企業に売却する。18年成立の改正水道法で可能になった仕組みで知事は当時、参院厚生労働委員会に参考人として出席し、法改正を要望した。
県の関連条例案は、すでに1年半前に県議会で可決されている。6月議会の議案の中心は、水処理大手「メタウォーター」(東京都)やフランスに本拠を置く水道業者「ヴェオリア」の関連会社など、10社のグループに運営権を与えるもの。いわば、事業開始に向けた「仕上げ」の議案となる。
県によると、対象は仙台市など25市町村の水道用水を供給する上水道や70社の工業用水など。県民の8割にあたる約190万人の水道運営が民間に移る計算だ。下水は静岡県浜松市、工業用水は熊本県で同様の事業が始まっているが、上水は全国初となる。
県は人口減で水の需要が減る中、水道料金の値上げを抑えることが狙いだと説明する。現状のままでは40年間で水道料金が約1・5~1・7倍に膨らむ可能性があると試算。民間が長期間運営すれば創意工夫が生まれ、設備更新の費用や人件費の抑制により、事業費を20年間で約337億円削減できると見込む。
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計画通り運営権が民間に渡ると、何が変わるのか。
水道用水はダムなどの水源から浄水場で処理され、受水タンクを通って各家庭に送られる。現在、県は水源からの取水や浄水場業務、タンクまでの送水を管轄し、タンクから家庭への供給は各市町村が担っている。今回の計画では、県の業務だったタンクへの送水までを民間が運営することになる。
ただ、県はすでに約30年間、4~5年ごとの業務委託で民間に浄水場の運転や監視を委ねてきた。今回の計画では、人員の配置や点検方法について民間の裁量を広げることで、コスト削減につなげると説明。水道法に基づいた水質検査は引き続き県が実施し、抜き打ち検査もすることで安全性を担保するとしている。
一方、薬品の調達や浄水場設備の修繕・更新工事については、実施主体が県から民間に移る。参入予定の10社グループは、設備の劣化時期などを予測するシステムを用いて修繕計画を定め、設備の「長寿命化」を図るなどと提案している。
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県の描くコスト削減や値上げの抑制について、「本当に実現できるのか」と疑問視する声もあがる。
市民団体「命の水を守る市民ネットワーク・みやぎ」は18日、1万9千筆あまりの署名とともに、関連議案を採決しないように求める請願を県議会に提出した。請願は県の計画を「民営化」と位置づけ、「諸外国で多数の失敗例が出ている」と批判した。
共同代表の佐久間敬子弁護士は「水は国民が等しく共有すべき資産。透明性が重要だ」と指摘。「県の計画には工程の詳細が分からない危険がある。本当に品質が保証できるのか不安がある」として、「企業秘密に関わることや不利益な情報は開示されないのではないか」と危惧する。
県議会の最大会派「自民党・県民会議」の村上智行会長は「これまでの議会でも十分に議論してきた。制度の必要性は認識している」と語る。第2会派の「みやぎ県民の声」の坂下賢会長は「会派の大半は慎重、反対の立場。県民への事業の周知が足りず、時期尚早だ」とする。(根津弥)
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