「思い出の味残したい」 閉店した紀南の店、相次ぎ復活

勝部真一
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 地域の人たちに長く親しまれながら営業を終えた和歌山県紀南地域の飲食店が、相次いで「復活」した。共通するのは「この味を残していきたい」という強い思いだ。

 田辺市役所にほど近い同市新屋敷町のカレー店「れんが屋」のカウンターの向こうでは、新しい店主の田上雅人さん(50)と妻の智子さん(44)、前店主の南岡敏夫さん(72)、妻の恵子さん(71)の4人がきびきびと動き回っていた。

 同店は兵庫県伊丹市で洋食店を経営していた南岡さんが阪神大震災で被災したのを機に1995年5月、開業した。紀南にはこれまでたびたび遊びに来ていて「いつかは移住したい」と思っていたという。

 それから26年、スパイスがほどよくきいた食べやすい欧風カレーが人気で、常連客も多く、観光のたびに訪れる人も少なくなかったという。ただ、70歳を過ぎて体力的につらくなってきたこともあり、閉店を決めた。一方で惜しむ声も多く、引き継いでくれる人を探していたという。

 田上さんは同店と取引のある米穀店「たがみ」の専務で、米の配達だけでなく店の常連の一人でもあった。南岡さんと一緒に山を登る公私ともに親しい間柄。「味はもちろん、多くの人に親しまれた縁も残したかった」と、店を引き継ぐことを決意した。5月に入ってからお店を手伝いながらレシピなども学んだ。

 店は5月28日にいったん閉店。6月10日に再開した。「店がなくなっても仕方がないと思っていたが、続けてもらえてうれしい」と南岡さん。しばらくは、恵子さんと共に手伝いに店に通う。そんな夫の姿に恵子さんは「生き生きと仕事をしていて、また元気が出てきたように思う」と笑う。時間に余裕もできたことで、夫妻で車中泊をしながら全国を旅行するのが今後の楽しみだという。

 田上さんは「『続けてくれてありがとう』と、お客さんからいわれるのがうれしい」と話す。午前11時~午後2時の営業で日曜日定休。

 白浜町の「フィッシャーマンズワーフ白浜」前から坂道を上って約100メートル。4月9日に開店した9席ほどの小さなうどん店「○(まる)ふく」は、2年前の9月に惜しまれつつ閉店した上富田町朝来の店が元祖だ。

 引き継いだ松下直樹さん(32)は、もともと田辺市内の飲食店で店長をしていたが、○ふくに子どもの頃から通っていたという知人を通じて、前店主の福本博文さん(83)と出会った。「思い出の味がなくなるのは寂しい。残したいという(知人の)思いに共感した」と、それまでは「年をとってから」と考えていた独立を決意した。

 もともとの店は、大阪で約40年間料理人をしていた福本さんが、上富田町の実家に戻り1994年に開業した。細めんのうどんやだし巻き、天ぷらなどが人気で常連客も多かった。

 松下さんは今年1月から福本さんにうどん作りを教わり、福本さんがメンテナンスを続けていた製麺機のほか、のれんや作務衣(さむえ)、椅子なども譲り受けた。オープン後、前の店の常連客らも多く訪れたという。「変わらない味で懐かしかった」などとほめてくれる客も少なくないが、厳しい声を聞くこともあるという。

 「○ふくの味を伝えていかなければ、というプレッシャーはもちろんある。福本さんのところにたびたび相談にいっている」と松下さん。誰もが認める「復活」に向けて修業の日々だ。営業は午前11時~午後3時、午後5~8時半(ラストオーダー同8時)、火曜日定休。(勝部真一)