アルツハイマー病の進行を抑えるとされる新治療薬「アデュカヌマブ」の製造販売を、米国食品医薬品局(FDA)が条件付きで承認した。新しいタイプの薬の登場が、アルツハイマー病の制圧につながるのか。30年近くアルツハイマー病の研究をしてきた柳沢勝彦・国立長寿医療研究センター名誉研究所長に話を聞いた。
過剰な期待は禁物
――これまでにないタイプの薬とあり、期待の声があがります。
症状を緩和する従来薬と違い、アルツハイマー病を引き起こす「アミロイドβ(Aβ)」というたんぱく質の蓄積を除去します。脳の病理変化に作用し、症状の進行速度を抑えられる新たなタイプの治療薬開発への転換、一歩を踏み出せたともいえ、喜ばしいことです。
ただし、今回はあくまで「条件付き承認」です。
今後の検証試験によって患者さんに効くのか、安全か。この両方が確認されるまで、過剰な期待は禁物だと思います。
また、FDAが公表している処方指針には、事前に必要な検査や対象者について詳しく書かれていないため、現場では混乱が予測されます。
必要な検査が不明確
――どのような混乱があるのでしょう。
アルツハイマー病の症状があり、そう診断された人のうち、2、3割はアルツハイマー病でない可能性があります。
血管性認知症や認知障害を伴うパーキンソン病、高齢者のうつ病などがあげられます。これらの病気の人の脳にAβはたまっていません。
アデュカヌマブは、Aβがたまっている人に作用するので、たまっていないアルツハイマー病以外の人にこの薬を使っても無意味です。
たまり具合はPET検査でわかりますが、この検査も高額なのです。
どんな検査を受けた人が薬の適応となるのか、現時点では明確になっていません。
――早期のアルツハイマー病の人にしか効かないとされます。なぜですか。
Aβは、アルツハイマー病を発症する20~30年前から脳内に蓄積し始め、時間の経過とともにさまざまな病変を引き起こします。
発症して脳の損傷が進んだ段階では、このタイプの薬の有効性には限界があると考えられています。
異常な事態がおきている
――FDAの条件付き承認後、諮問委員の3人が不服として辞任した事態をどうみますか。
通常はありえない、きわめて…
【視点】 アルツハイマー病治療の新薬は、「メマリー」が欧州、米国で2000年代始めに承認されて以来、20年近い空白となっていました。条件付きとはいえ、アミロイドβの蓄積に働きかける新しいタイプの薬「アデュカヌマブ」が、米FDAの承認を得たことは、大