誰がリンゴをつぶしたか 「任務」を完遂した中国機関

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香港=奥寺淳
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 反体制的な言動を取り締まる香港国家安全維持法国安法)が中国共産党政権の主導で施行されてから、6月30日で1年となる。急速に自由が奪われていく香港の現状を報告する。

 23日夜、この日の編集を最後に廃刊が決まった香港紙「リンゴ日報」。数百人の支持者が郊外の工業団地にある本社前に駆けつけ、屋上に集った記者らとスマホの白いライトを照らしあい、「ありがとう」「香港、加油(頑張れ)」とエールを交わし合った。

 編集局には、同紙創業者黎智英(ジミー・ライ)氏の娘で弁護士のジェイド・ライさんの姿もあった。父親は香港国家安全維持法国安法)違反の罪などで起訴され、収監が続く。ジェイドさんは26年の歴史に幕を閉じた新聞を手にして、仲間たちと笑顔で記念写真に納まった。

 社内は、最後の紙面を作り上げたという高揚感に包まれていた。しかし、編集局が少し静かになると、ある記者は「悲しい」と漏らした。記者たちの高ぶった気持ちは、当局によって廃刊に追いやられた怒りと挫折、そして無力感の裏返しでもあった。

 経営と編集の各トップや主筆を拘束。発行元の会社の資産凍結や、銀行への融資の禁止。当局はなぜ、なりふり構わず容赦ない弾圧劇を繰り広げたのか。

 中国政府に近い関係筋は、それがある機関の「任務」だったという。

 「国家安全維持公署」。昨年7月、香港に新設された中国政府の出先機関だ。

 昨年6月30日に施行された国安法では公署の役割を、①香港における国家安全情報を分析・判断し、戦略や政策を出す②香港政府を監督・指導する、と定める。「国家の安全」の名の下で、香港政府よりも上位に立つことが明確にされている。

 ただ公署の公式ホームページも代表電話番号もなく、その内実は秘密に包まれている。

 中国政府の関係筋や内部の事情を知る香港政界の有力者への取材で、公署の実態や、リンゴ日報に狙いを定めた経緯が見えてきた。

 取材によると、公署には300人余りが勤務。中国本土の公安当局や、外国のスパイを取り締まる国家安全省から派遣されている。権限は非常に強く、リンゴ日報への強制捜査を担った香港警察は、公署の方針に従って取り締まりをしているに過ぎない。公署は、中国政府が追求する「安定」を香港で実現させるための司令塔だという。

「大敵」だったリンゴ

 その公署が大敵とみなしてい…

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