「痛み」は我慢しなければダメ? 向き合い方を考える

聞き手・水野梓 聞き手・松川希実 田部愛 水野梓
[PR]

 頭痛や生理痛、がん検診時などのからだの「痛み」は我慢しなければいけないのでしょうか。アンケートには「周囲に迷惑をかけてしまうから言いづらい」「たいしたことないと言われた」といった体験談が寄せられました。皆さんの声をもとに医師2人にお話を聞き、「痛み」との向き合い方を考えました。

慢性痛治療 目標は生活の質向上 横浜市立大学付属市民総合医療センター医師 北原雅樹さん

 長引く痛みがなかなか治らない――。そんな患者さんを診察する「痛み」の専門外来ペインクリニック」に勤める、横浜市立大学付属市民総合医療センターの医師・北原雅樹さんに話を聞きました。

     ◇

 医療者も含め、日本では急性と慢性の痛みの区別がついていません。歯を抜いたり、おなかが痛くなったり……そんな痛みは「急性」です。私たちは小さな頃からこの急性の痛みを経験して「痛み」を学びます。痛み止めなど薬で改善しますし、骨折なら「動かさずに安静にしておく」という思考になります。

 一方で、腰痛や肩こり、原因不明の痛みが続くといった「慢性痛」は、病気などから起こる身体的原因だけではなく、心理社会的因子が複雑にからんでいることが多くあります。急性とは対処の方法が違い、そういった痛みには痛み止めの薬が効きづらいんです。痛みが強い時に受診して投薬や注射するといった従来型の治療では、限界があることも多いのが事実です。

 2010年の大規模な痛みの調査「Pain in Japan」では、慢性痛に苦しむ人が成人のうち2割以上いるとされています。そこで当院では初診に2時間をかけ、まず「痛みがあることで一番困っていることは?」と尋ねて、痛みの背景を探ります。慢性痛の治療のゴールは痛みの寛解・緩和ではなく、「Quality of Life(生活の質)の向上」です。

 患者さんには300問近くある問診票に記入してもらいます。紹介状やおくすり手帳を照らし合わせながら話を聞いていきます。

 「足が痛くてほかのことを忘れてしまう」という訴えの患者さんは、詳しく話を聞くと「何回も同じことを言ったと言われる」「外出後、鍵をかけたか不安になって家に戻る」など、認知症が疑われました。実は夫から暴力を受けていた患者さんや、90歳の母を介護中で首と肩が痛くて眠れないと訴える患者さんもいらっしゃいました。

 この方はお母さんを施設に預けたことで痛みが消えました。こういった場合は、つらい状況や現実といった言語化できない何かが、身体化して「痛み」になっていると考えています。だから医者は全体を診療しなければなりません。

 痛みの症状に関しては問診には書いてもらいますが、診察ではあまり聞きません。聞いてしまうと、患者は医者の興味に応えようとして痛みを探してしまうからです。

 実際には、生活習慣の改善、運動療法心理療法などを中心として治療していきます。補助的に薬物療法やその他の療法(神経ブロック療法など)を使うこともあります。作業療法士理学療法士臨床心理士、鍼灸(しんきゅう)師といったチームで診療することが大切です。近年は特に心理療法の「認知行動療法」が注目されていますが、単純に運動不足や寝酒といった生活習慣を改善するだけで劇的によくなることもあるんですよ。

 市販薬をのんでも頭痛が改善しないなど、おかしいなと思ったら受診を勧めます。痛みの専門病院は慢性の痛み情報センター(https://itami-net.or.jp/別ウインドウで開きます)で検索できます。(聞き手・水野梓

生理痛は治療の対象 「我慢すべき痛みではない」 産婦人科医 宋美玄さん

 生理痛、治療の痛み――。「子宮体がん検診が痛すぎて絶叫」と訴えた投稿がツイッターで拡散されるなど、「どうにもならない痛み」に悩む人は多いようです。痛みとの向き合い方を、産婦人科医の宋美玄さんに聞きました。

     ◇

 まず子宮体がんの検診ですが、そもそも、症状が無い人が受けて有効だというエビデンスはありません。痛いかどうか以前に、無症状の人に検査するのは、「無駄に患者を傷つけてはいけない」という医療の大原則にもとります。

 子宮内に腫瘍(しゅよう)が疑われるなど、医師が必要と判断した場合に検査することがありますが、残念ながら簡便に子宮体部に効く麻酔はないので、痛みは伴います。

 子宮頸(けい)がんの検査は、性交経験がある人は2年に1度、受けてほしい検査です。でも、麻酔を打つと病変が見えなくなってしまう。病気を的確に発見するという目的を犠牲にしてまで、検査方法を変えることは、勧めません。

 ただ、膣(ちつ)入り口につける麻酔ゼリーはあります。精度は落ちますが、子宮頸がんなどの原因となるウイルスの自己採取HPV検査もあります。

 医師に「痛みが簡便に取れるならお願いしたい」と相談することで、少し「マシ」になる選択肢が示せるかもしれません。

 アンケートの回答の大半は女性でした。がん検診でも、女性の方が痛い目に遭うことが多く、生理痛や出産で、痛みを感じる機会が多いからかもしれません。

 一般的に、腹痛なら病気があるかもしれないと考え、「それぐらいで病院に行くな」とは言われないでしょう。でも、生理痛や陣痛だと「痛いのが普通」。これまでは「みんな痛いから」「あなたは病気じゃないから」と、我慢するように言われがちでした。

 でも、先端の女性ヘルスケアの考え方では、生理の痛みは「治療の対象」になるんです。病気が原因で痛い場合と、何もなくても痛い人もいます。どちらも治療の対象で、「我慢すべき」痛みではありません。

 痛み止めも、皆さん「我慢できなくなってから飲みます」と言いますね。私も親に「薬の『悪い物』が身体にたまって、将来産む子に悪い影響がある」とすり込まれてきましたが、薬の成分は代謝で体から無くなります。副作用もあるので「じゃんじゃん飲んで」とは言えませんが、それほど罪悪感なく、早めに飲んでも大丈夫です。

 「痛み」をひとくくりにして語ることは難しいです。でも、根本的な原因を解決すると我慢しなくてよくなった痛みもけっこうあります。

 ただ、陣痛など「避けられない痛み」に関して、意味づけをしてきた名残で、いまだに帝王切開する人に「(自然分娩〈ぶんべん〉でないと)我慢強い子にならないよ」と言う人がいる。そういう人には、「痛みを我慢したから偉いわけではない」「痛みに意味づけは必要ない」と伝えていかなければいけません。

 他者の痛みを軽視する人は、共感力が低い人のように思えます。だから「痛い」と伝えても、分かってもらえないかもしれませんが、一定のコミュニケーションの努力をしていくしかないのかもしれない。

 痛みがなくても、年に1度はかかりつけ医で問題がないか診てもらってほしいです。(聞き手・松川希実)

生理の激痛…まさか病気だったとは

 爆発しそうなくらい、おなかが痛い。大きな事故や病気を経験したことのない私にとって、月に1度の生理痛は「人生で一番の痛み」でした。

 下腹部の臓器が膨らんだかのように感じたかと思えば、まるで巨人の手で強くひねられているような感覚に陥り、これが20~30分繰り返される。トイレや布団の中でうずくまり、痛みが過ぎる頃には全身脂汗まみれ。大学受験の試験中にトイレに駆け込んだり、取材中に何も考えられなくなったりしたこともありました。

 昨年末、初めて婦人科を受診しました。医師から告げられたのは「子宮内膜症」。子宮の内側にある子宮内膜と似た組織が、おなかの臓器を覆う膜や卵巣など子宮以外の場所にできる病気です。生理の度に悪化し、痛みや不妊の原因になります。低用量ピルで治療を始めて半年経った今は、痛みに振り回されることがほとんどなくなりました。

 生理が来てから17年間、なぜ私は生活に支障がでるような痛みを放置し続けたのでしょうか。それは「生理痛は一人一人違う」ということを知らず、「みんながまんしている」と思い込んでいたからです。「耐えている時間があったら、早く病院に行けばよかった」と今は後悔しています。

 痛みをこらえながらの生活は、ゼロではなくマイナスからのスタートです。本人も、その苦しさに気づいた周りの人も、がまんの努力を続ける前に、解決する方法を探る意識が根付いていったらいいと思います。(田部愛)

「早く病院に行くこと考えていれば」 「痛くて当たり前の検診はおかしい」

●受診していたら仕事を辞めずにすんだかも

 子どもの頃から頭痛など痛みが強く出ていましたが、人に伝えるものだという認識がありませんでした。生理痛がはじまっても黙って痛み止めを飲んで耐え続け、30代半ばに受けた検診からやっと医療につながりました。痛みによるQOL(生活の質)の低下はひどいものがあり、もっと早く病院に行くことを考えていれば、辞めずに済んだ仕事もありました。(神奈川県 50代女性)

●「それくらいで休むのは甘い」

 痛みを訴えると医師から「あなただけじゃない」と言われ、薬の副作用がつらくて仕事を休むと「それくらいで休むのは甘い」と上司に叱られた。痛みの感じ方は人それぞれだが、当人にとっては苦痛でしかない。私の周りは無理をするのが当たり前の世界になっている。(福岡県 30代その他)

●「痛い」が当たり前の検診、おかしい

 乳がん検診のマンモグラフィー子宮がん検診は正直受けたくないです。「痛い」のが当たり前の検診なんておかしい。(大阪府 20代女性)

●医者の言葉に涙あふれた

 帝王切開での出産後、痛みがひどかった。痛み止めの点滴も時間をあけないといけない、夜も遅く看護師さんを呼ぶのも申し訳ないと耐えていたら、看護師さんの回診で大量に出血もしていたと判明。駆けつけた医師が「相当痛みもありましたよね。痛いと言っていいのですよ。痛みを我慢するなんて今どきありません!」ときっぱり言ってくださって涙があふれました。(東京都 40代女性)

●だましだまし、やっている

 同じ姿勢のまま作業を行うことが多い職業です。足腰が痛む、頭痛がするといった時にそれを上司に伝えても何も変わらず、「我慢しろ」と言われるような気がしますし、実際そのような場面を見ました。素直に痛みを伝える機会が訪れず、結局、休みの日に治療を受けながら、だましだましやっています。(東京都 20代男性)

●タクシーで病院に、緊急入院

 痛みは客観的指標があいまいで、個人によって感じ方が違うものなので「私が痛みに弱いだけなのか、一般的に言ってもつらい痛みなのか」に自信が持てず、いつも我慢してしまいます。

 タクシーでどうにか病院にたどり着き、そのまま緊急入院になったことが複数回あります。看護師さんにはいつも「救急車を呼べばよかったのに」と言われますが、集合住宅に住んでいることもあり、通報のハードルは高いままです。(埼玉県 20代女性)

●基本的には我慢しない

 痛みは異常があるサインなので、基本的には我慢しない。自分的に結構な強さの痛みでも医学的見地からみれば初期の症状で、医者に「大したことはない」と言われると「受診しなければよかったか」と思うことはある。(東京都 40代男性)

●いつものだな、と我慢

 いつものだな、と思うと我慢してしまう。何も病気がないのに受診してしまったらお金が無駄になると思うから、ある程度は我慢してしまう。(北海道 20代その他)

     ◇

 回答の約9割は女性から。女性特有の痛みがある、個人差があって理解されづらい、実名のSNSでは伝えづらい……そんな影響があるのだと思います。「我慢強いと褒め言葉のように言われて育ち、『我慢は美徳』と思っていた」という声には、日本社会の背景がにじんでいると感じました。

 医療者や家族に伝えたのに、まともに取り合ってもらえなかった体験談も。痛みを共感してくれるかかりつけ医や、信頼できる相談相手を見つける大切さも感じました。「痛み」の語りが広がることで痛みへの想像力が働き、誰もが「痛い」と言いやすい社会にしていきたい。改めてそう感じました。水野梓

     ◇

アンケート「共学か別学か、どちらがいいと思いますか?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施中です。ご意見、ご提案はasahi_forum@asahi.comメールするへ。