所有欲としてのまなざしをみる 鷹野隆大「毎日写真」展

田中ゑれ奈
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 写真家・鷹野隆大(りゅうだい)は「見る」行為を考察しつづける。大阪・中之島国立国際美術館で29日に始まる初の大規模個展「鷹野隆大 毎日写真 1999―2021」(朝日新聞社など主催)で提示するのは、影という所有しえないものすら「所有」しようとする試みだ。「すごく欲深いなと、自分で思います」

 鷹野は木村伊兵衛賞を受けた「IN MY ROOM」など、身体を被写体としジェンダーやセクシュアリティーをかき乱す作品で知られる。一方、1990年代後半には日常で気になったものを「テーマ性やコンセプトなしに」反射的に撮影することで、撮る行為としての身体性を追求し始めた。今展ではその「毎日写真」プロジェクトを軸に、近年の影を採集する作品群まで、鷹野によるさまざまな「ものの見方の標本」が並ぶ。

 「毎日写真」から派生したシリーズの一つが、身近だが顧みられない日本の雑多な都市空間を写す「カスババ」だ。「日本の町って汚くてさえない、なんとなくイライラするという思いが、写真を始める前からずっとあった」。違和感にあえて向き合う中で、鷹野はその原因を、視界の中にうまくポイントを見つけられない無秩序さに見いだした。そして、自身も属する「カスのような場所」と和解していく。

 2011年3月、再び転機が訪れる。千年に一度の災害と言われた東日本大震災の衝撃で「自分の中で時間の単位のありように混乱が起き」、何を撮るべきかわからなくなったある日、歩いていると足元に何か黒いものが絡みついていた。払いのけようとした時、それは自身の影だと気付く。

 「人生で常についてきていたはずの影が、自分と離れて別の物質のように感じられた」。その経験は、影が描く「距離」を強く意識させ、晴れた日の正午に定点観測的に自らの影を撮影する「日々の影」シリーズを生む。そして、3次元の現実を2次元化して虚構の世界をつくり出す、写真というメディアに対する考察にも重なっていく。

 18年以降に始まった三つのプロジェクトは、カメラを通さずに「影そのもの」を所有しようとする試みだ。その一つ、光を浴びると緑色に発光する素材を使った「Green Room Project」の手法によるインスタレーションでは、鑑賞者は蓄光シートに残る自分の影をスマホで撮影して持ち帰ることができる。その空間を、鷹野は「欲望の部屋」と名付けた。

 写真は近代社会に「所有欲の拡張をもたらした」と鷹野は考える。他者の身体をまなざすのも、時間や空間を手中にとどめようとするのも「所有」の一つのあり方。ならば、その欲望の主体とはいったい誰なのか。スマホ片手に誰もが写真家になる時代の写真展は、そんな問いを示している。(田中ゑれ奈)

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たかの・りゅうだい 1963年福井県生まれ。早稲田大卒業後、90年代前半から作家活動を始め、2006年に木村伊兵衛写真賞を受賞した。性や身体の表現や日常のスナップ、都市風景の撮影のほか、特殊素材で影を写し取るなど多様な表現に取り組む。国内外で個展やグループ展多数。

◆29日[火]~9月23日[木][祝]、国立国際美術館(大阪市北区中之島4の2の55)。[月]休館(8月9日と9月20日は開館)、8月10日[火]は休館。午前10時~午後5時([金][土]は午後8時まで)。入場は閉館の30分前まで

※感染症拡大防止対策などのため、会期や時間などに変更の可能性があります

◆一般1200円(20人以上の団体1000円)、大学生700円(同600円)、高校生以下・18歳未満無料(要証明)

◆問い合わせ 国立国際美術館(06・6447・4680)

主催 国立国際美術館、朝日新聞社

協賛 ダイキン工業現代美術振興財団

協力 Yumiko Chiba Associates

 会場ではTシャツやノートなどのオリジナルグッズを販売します。作品制作過程の銀塩写真プリントから一部をカットした「テストプリント」=写真、左2枚は大サイズ、右2枚は小サイズ=も数量限定で登場。長辺20センチ前後の大サイズが5500円、同10センチ前後の小サイズが3300円です。