恥ずかしい?いや、誇らしい!珍地名「鼻毛石町」の謎

編集委員・小泉信一
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 字面を見て思わず笑ってしまったり、どんな読み方をすればいいのか戸惑ってしまったり。そんな珍しい地名(珍地名)が、テレビ番組やインターネットで人気を呼んでいる。群馬県で話題になっているのは赤城山の南面にある「鼻毛石(はなげいし)町」(前橋市)。一体どんな場所なのだろう。

 上毛電鉄・大胡(おおご)駅から荒砥(あらと)川沿いを北上する。やがてぶつかるのは信号のあるT字路交差点。電柱の表示に「鼻毛石町」と書いてある。「緩やかな傾斜地が広がるこのあたりは、いまも町の中心地です」。元禄時代から赤城山で温泉宿を営む東宮家の17代目、東宮惇允(あつよし)さん(74)はそう語る。

 地元有識者が編集した「鼻毛石のあゆみ」(1986年)によると、16世紀中ごろにはすでに「鼻毛石」と呼ばれていたらしい。馬に乗って赤城神社を参拝する人たちがこの場所で曲がったことから、「馬の鼻返し」が、まず「鼻返し」になったのではないかという。

 「『カ』を『ケ』と発音する人が多いため、ハナガエシがハナゲイシになったのでは」と東宮さんは推測する。だが漢字で「鼻毛」と表記するようになった理由は謎につつまれている。

 T字路交差点から東へ300メートルほど。細い道を左に曲がると、しめ縄をかけてまつられている石があった。高さ約1・5メートル、周囲約10メートル。「鼻石」と呼ばれ、「地名発祥の石」という看板も立っている。

 市文化財保護課によると、数十万年前の赤城山の噴火に伴い、崩れ落ちてきた石ではないかという。鼻の穴にあたる部分はコケに覆われ、判別は難しい。だが直径5センチほどの穴が、石の東側と、そのやや下に、それぞれあるそうだ。「穴に草やコケが生え、鼻毛みてえに見えたんだんべえ」と地元の古老たちは話す。

 1889(明治22)年、この地域周辺の七つの村が合併して宮城村が誕生したとき、鼻毛石も村に吸収された。だが2004年12月、村が前橋市に合併される際、「鼻毛は恥ずかしい」ということが主な理由で「鼻ケ」か「鼻カ」に変えようという案が出た。ところが古くからの住民を中心に反対論が起きる。「先祖伝来の地名を変えてしまうのはもってのほか」。結局「前橋市鼻毛石町」として、鼻毛石の名前は残ることになった。

 あれから17年。いまや県内の珍地名ナンバーワンといわれる「鼻毛石」。ネット上では「すごい!」「面白い」などと好意的な受け止めが多い。地元の人たちは「地名を大切にすることは郷土を愛すること。地名は地域住民の誇りなのです」と話している。(編集委員・小泉信一

全国には、さまざまな珍地名が…

(朝日新聞データベースなどから)

▽昼飯(ひるい)(岐阜県大垣市)……如来像を運んでいた一行が信州の善光寺に向かう途中、昼食をとったことに由来するとされる。

▽半家(はげ)(高知県四万十市)……平家の落人伝説に由来か。「平」の字の一番上の「一」を下に移動させたという。

▽浮気(ふけ)(滋賀県守山市)……伏流水がたくさん湧く地域。秋から冬にかけての早朝、朝もやが浮き立ったことが理由という。

【番外】

▽エロマンガ……オーストラリアの内陸部と、太平洋に浮かぶバヌアツ共和国のエロマンガ島の2カ所。前者は砂漠の中にある小さな町。石油採掘の関係者らしか住んでいないという。