「ワクチン不要」怪文書、突然自宅に 専門家は内容否定

吉田耕一 聞き手・吉田耕一
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 「それでも、あなたはコロナワクチンを接種しますか?」。そんな題名の怪文書が6月、宮崎県延岡市の住宅街に配られた。ワクチン不要論や接種の危険性を説く内容で、差出人は匿名。専門医は「事実誤認が多く、怪しい内容。惑わされないで」と注意を促す。

 文書はA3判の両面刷り。全国の医師や大学教授、ノーベル賞受賞者らの実名を挙げ、彼らの「発言」や政府の「国会答弁」として引用する形式をとり、新型コロナウイルスは「風邪(かぜ)の一種で、自然免疫で治る」。ワクチンは「打つ必要なし」。接種は「遺伝子改変と同じ医療行為だ」などと主張する内容だ。

 「インフルエンザよりも死者数が少ない」「1年というスピード開発で安全性を軽視して出来た遺伝子ワクチン」などと記述し、「PCR検査も緊急事態宣言も自粛も必要ない」と断言。ワクチン接種の危険性を繰り返し説いた上で、接種は強制ではなく任意だと強調。「ご自分で検証判断なされることを、お勧め致します」と締めくくる。

 差出人は「一市民より」。6月前半、延岡市の住宅街に住む60代後半の男性宅に、封筒なしの二つ折りの状態で郵便受けに入っていた。約2キロ離れた地域でも配布されており、一定の範囲に配られたとみられる。

発言切り貼り、人名の間違いも

 男性は5月末に1回目の接種を受けた。「一般市民には内容の真偽が判断できない。2回目はやめた方がいいかも」と不安を隠せない。匿名で投函(とうかん)する手口には「不安をあおるだけで無責任だ」と憤る。

 ウイルス学の専門医によると、文書の内容には事実誤認が目立つという。引用された発言者も、専門外の医師や学者だったり、実在の人物と名前が1字違う人だったりしている。

 愛泉会日南病院(宮崎県日南市)の峰松俊夫医師は「専門外の医師や学者の発言の一部が切り貼りされ、データの使い方も怪しい。ワクチン接種は任意だが、打つか打たないかの判断は、匿名情報ではなく、行政や医師会が発信した情報を参考にしてほしい」と呼び掛けている。

 厚生労働省国立感染症研究所によると、国内で1月時点の新型コロナの致死率(感染者数に占める死者数の割合)は1・4%で、季節性インフルエンザ(0・02~0・03%)を大きく上回る。年代・性別では80代以上の男性が致死率17・0%と突出。季節性インフルの死者は年間約2500~3400人である一方、コロナ関連の死者は昨年2月から現在までに1万4千人以上にのぼる。感染者数は同インフルの年間1100万~1500万人に対し、コロナは昨年1月以降で80万人弱。(吉田耕一)

専門医「事実誤認多い」

 匿名文書の内容について峰松俊夫医師に聞いた。

 ――新型コロナウイルスによる死者数は「インフルよりも少ない」とあるが。

 感染者数のケタが違うので死者数より感染者の致死率を比較すべきだが、国内の現状では死者数も致死率もコロナの方が上回る。文書では、1918年から流行したスペイン風邪(A型インフル)の死者数を「日本の場合、40万人」と例示しているが、インフルの原因がウイルスと分かったのは1933年だ。今とは疫学や公衆衛生、医療体制などの社会環境が違い過ぎて、一概に比較できない。

 ――文書には、感染して発熱しても2週間寝ていれば治り、免疫が出来るから「ワクチンは不要」とある。

 感染して治れば免疫を獲得しているが、実際に感染して亡くなった人が出ている。高齢者や基礎疾患のある人を無視した説明だ。

 ――短期間で開発されたワクチンは危険なのか。

 接種が進んでいる「m(メッセンジャー)RNAワクチン」は何十年も研究が続けられてきた技術で、1年で急造されたものではない。新型コロナウイルス遺伝子の成分であるRNA(リボ核酸)を接種することに抵抗を覚えるかもしれないが、RNAは人の細胞内で数日で分解される。海外での安全性試験のデータや国内の先行接種では、免疫疾患の増加や不妊症を引き起こした報告はない。

 ――PCR検査では感染を証明できないとあるが。

 ウイルス自体ではなく、ウイルスの成分(核酸)を検出する検査で、陽性反応で核酸の存在が証明されれば、感染を疑う指標となるから重要な検査だ。文書には「風邪ウイルスにも反応する」とあるが、一般的な風邪のウイルスとは明確に区別できる。(聞き手・吉田耕一)