開幕が迫る東京五輪でメインスタジアムとなる国立競技場の設計に参画した建築家の隈研吾さん(66)が、東京国立近代美術館で「新しい公共性」をテーマに大規模個展を開いている。多くの作品模型を通し、その建築観を伝える場でもある。隈さんに、観客数の見通せない国立競技場の姿や、コロナ後の都市・建築像について考えを聞いた。
――展覧会の冒頭には、国立競技場の設計段階の模型があります。現在の議論では、観客は上限1万人、場合によっては無観客という可能性もあると思いますが、設計する時は満員を想定していたんじゃないでしょうか。
「オリンピックのときは当然満員になると思っていましたけれど、その後は人の入らないイベントもあるだろうし、そういう時でも寂しくないデザインがいいなと思っていました。国立の設計をやる前に世界中のスタジアムを見てまわったんですが、地味なイベントもやっているわけです。その時に椅子が全部真っ青だったり真っ赤だったりすると、すごく寂しく見えるので、国立では少人数の時も楽しさやにぎわいが感じられるように、と。これから少子高齢化になるので、イベントもどんどん小さなものになる可能性がある。そういう時代を意識し、ああいう色の配置を考えたんです」
――確かに5色のシートがランダムに配されたスタンドは、人が少なくてもにぎわって見えます。競技場の屋根などには、細かい木の部材を使っていますが、あのスタンドは木漏れ日のイメージだとも聞いていました。
「どうやってランダムさを作ろうかという時に、天井がちょうど森のようになっていてそこから光が降りてくるわけですから、その光が落ち葉に届くようなイメージです。森のようなしっとりした空間ができるかなと思って。元々ランダムにする考えがあって、そのときに落ち葉のイメージを使ったわけです」
「まず五色を選んで、地面に近いところは、下のアンツーカーに合わせて茶色を多くして、上の方は空に近い白を多くして、その間に緑やベージュ系の3色混ぜてグラデーションを作っています」
――展覧会では、新しい公共性をつくるための5原則として、「孔(あな)」や「粒子」を掲げていますが、あのシートも、ある種の粒子ですよね。
「まさに粒子ですね。全部真っ赤にするのは、全部を一つの塊にするのが好きだった20世紀的な色の決め方です。これからは社会全体が、粒子的なパラパラした離散的な状態になっていくだろうという僕のイメージがあって、それを建築を通じて示したいという思いがあります。その考え方を座席にも反映しました」
――コロナという状況にも対応できるものだったいうことでしょうか。
「それは偶然と言えば偶然な…
- 【視点】
建築やデザインは時代を象徴します。マンハッタンの摩天楼に象徴される20世紀モデルは、富と野望をあらわしていました。日本では21世紀に入ってもバブル期を名残惜しむように、再開発などできらびやかな建物をつくるカルチャーが続きましたが、コロナショ