部員ゼロから単独チームに 初試合に臨む八丈島の高校

御船紗子
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 東京都心から約300キロ南、八丈高校の校庭からは雄大な「八丈富士」が見える。放課後、軽快な打球音を響かせる野球部だが、1年前の春、新学期が始まった時点で部員はゼロだった。

 新型コロナウイルスの影響で、4月はずっと休校。6月に学校再開を控えた5月下旬、島の中学から入学した新入生9人が入部の意志を固め、かろうじて部の存続が決まった。しかし1人はマネジャー。2016年以来となる単独出場には、選手が1人足りなかった。

 同じ新入生に、埼玉県からやってきた久田健心(けんしん)選手(2年)がいた。地元の中学で居づらさを感じ、自分に合う高校を探していた。説明会で校長と話し、「やっていけそう」と感じた。釣り好きで、「のびのびできそう」な自然も魅力だった。

 「野球やらないか」。同じクラスの生徒から誘われ、正直驚いた。野球経験は小2の約1年間だけ。「どうしよう」。迷っているそばから、「ぜひ入ってくれ」と頼み込んでくる。

 何か一つのことを長く続けた経験がなかった。でも「高校では何か始めてみたい」とも思っていた。真剣に頼み込む姿に「野球部なら……」と思った。

 ちょうどその頃、全国高校野球選手権大会の中止が決定。野球部の最初の目標は独自大会出場になった。久田選手は体力作りから取り組んだ。仲間はアドバイスをくれたり、いいプレーには「すげえじゃん」と声をかけてくれたりした。

 しかし、新型コロナの感染拡大はおさまらず、都教育委員会は「宿泊を伴う課外活動は延期または中止」とのガイドラインを設けた。早朝に島から本州へ移動する交通手段はなく、どうしても宿泊を伴う。学校はやむなく辞退を決めた。目標だった独自大会出場への道は思わぬ形で閉じた。

 夏が終わってもコロナ禍は収束の気配を見せず、秋の大会も辞退。例年ならできる練習試合も組めない。菊池絆主将(2年)は「1年生だけのチームだから他校より試合経験が積めると思っていた。ショックは大きかった」と振り返る。

 チームの士気は下がった。「試合に出られないなら、勉強に集中したい」という声も出た。教室に集まって全員で話し合った。「3年の夏が最終目標。そこが揺らがない限り、がんばれるはず」という菊池主将の言葉にみな納得し、冬を乗り切った。

     ◇

 「空白のひと夏」を越え、八丈は今年、単独出場をかなえた。

 久田選手は外野手として練習を重ねる。何げない雑談で笑い合える。そんな時間が楽しい。「3年の引退まで部活はやめない」。菊池主将の言葉どおり、こう思っている。

 初戦の相手は昨夏8強の城東だ。チームが誕生して練習試合も含め初めての試合でもある。菊池主将は言う。「甲子園経験もあるチームが初試合の相手でうれしい。野球の楽しさを味わって戦いたい」御船紗子