すしも酒も、冷凍品の宝石箱 店の運営は機械メーカー

大平要
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 【神奈川】肉や魚などの食材から飲食店の料理、デザートまで、様々な「冷凍食品」を販売する専門店が、横浜市都筑区にある。外食が難しいコロナ禍にあって、自宅でプロの味を手軽に楽しめると好評だ。今年2月に店を開いたのは、地元の機械メーカー「テクニカン」。どんな会社なのか。

 店の名は「トーミン・フローズン」。スーパーにあるような冷凍ケースがたくさん並ぶ。ケースをのぞくと多彩な中身に驚く。取扱商品は500品目。肉や魚など生鮮品のほか、ハムや干物といった加工品やお好み焼きやパスタ、握りずしも。フルーツやケーキ、日本酒まで冷凍されている。

 気になるのは、入り口近くにある金属製の機械。小型洗濯機ほどの大きさだ。店を運営するテクニカンが製造・販売する急速凍結機「凍眠ミニ」だという。

 「店の商品はすべて、うちの機械で冷凍されたもの。全国の納入先にとってのアンテナショップなのです」。広報課長の津田谷英樹さんが説明する。店には機械の導入を検討している飲食店のオーナーらも訪れる。ここは、テクニカンにとっての「ショールーム」でもあるのだ。

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 凍結機は「凍眠ミニ」のほか、大型の「凍眠」がある。仕組みは同じで、マイナス30度に冷やした液体(アルコール)を使い、食材を短時間で凍らせる。同社のデータでは、さらに低温の窒素ガスを吹きかけるタイプのものと比べ、約8倍のスピードで冷やすことが出来るという。

 食材の細胞を壊さずに冷凍でき、解凍したときに食材のうまみが詰まった「ドリップ」が出ない。長期に保存しても「味も食感も、ほぼ同じ状態をキープできる」と津田谷さん。

 社長の山田義夫さん(74)が、約40年前に思いついた。当時、親が営む食肉卸会社で働いていた。ファミリーレストランが全国に広がるなど外食産業が伸び始めていた時代で、肉の物流が課題になっていた。

 山田さんは趣味のダイビング中、同じ温度でも陸上より海中の方が体が冷えることに気づく。試行錯誤の末、液体を使った凍結機を自力で作った。親の会社の業績に貢献する結果となった。

 1989年に独立して会社を興す。「凍眠」は全国の食品工場に売り込んだ。ただ、山田さんは「性能を説明してもなかなか信じてもらえず、すぐには思ったほどには売れなかった」と振り返る。

 「凍眠ミニ」は飲食店からの要望を受け、2019年度に発売した。25センチ角ほどまで1度に凍らせることができ、1台約80万円。コロナ禍で休業や時短営業を求められた飲食店が、冷凍商品の販売に乗り出し、注文も急増した。国や自治体が、こうした動きを支援する補助制度を設けたことも、追い風になった。

 最初の1年の販売は約40台。これが20年度には240台と、6倍になる。社員20人ほどの会社は、今もフル稼働状態が続く。

 凍眠ミニは飲食業界のネットワークを通じて口コミで広がり、引き続き高い受注が続いている。「もう少し大型のものを」という要望もあり、凍眠ミニの2倍の能力を持つ新型機の開発を急ぐ。

 意外な引き合いもあった。性能に関心を持った京都市の医療ベンチャーから血液成分を保存するために活用できないか試したいと申し出があり、凍眠1台を約2年間貸し出した。食品以外にも、用途が広がっていく可能性を感じた。

 山田さんは18年と19年、米ニューヨークの国連本部で開かれたSDGs(持続可能な開発目標)推進会議に招かれ講演した。同社の技術が、食料廃棄問題や、年間を通じた食材の安定供給などに役立つと、注目されたためだ。山田さんは「凍眠の技術はいろいろなことに役立つ。出し惜しみをするつもりはない」と意気込んでいる。(大平要)

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