川崎駅前、街宣活動のたび騒然 条例1年の今も差別の芽

大平要
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 ヘイトスピーチに刑事罰を科す川崎市の「差別のない人権尊重のまちづくり条例」が全面施行されてから、1日で1年になる。在日コリアンが多く住む地域に押し寄せ、「国へ帰れ」「死ね」という言葉が飛び交う――そんな状況からは、大きく改善したが、街中から、差別の芽がすっかり消えたとは言えない。

 6月27日正午。JR川崎駅前で日の丸や旭日(きょくじつ)旗を掲げた集団が演説を始めた。「(在日コリアンが多く住む地域には)違法な建物が乱立している」「川崎市の条例は日本人差別で憲法違反だ」。約1時間半で10人がマイクを握った。

 集団の周囲は警察が設けた鉄柵が囲み、その外側で約50人が抗議の声を上げていた。2014年ごろから抗議活動に参加している川崎区の70代男性は「条例ができてからは以前のように『死ね』とか『出て行け』というのは言わなくなった」。だが、演説の端々に在日コリアンや外国人をさげすむ表現がにじんでいるように感じる。「話を真に受けて、差別意識を持ってしまう人がいないか心配だ」とも話す。

 騒然となる駅前を、買い物に訪れたという50代女性が、足早に通り過ぎていった。「しょっちゅうやっていますね。怖くて近づけない」

街宣活動、半年で30件超 刑事罰の諮問ゼロ

 市人権・男女共同参画室によると、「右派系市民グループ」による市内での街宣活動はこの半年で30件を超える。同室は、グループが公開している動画などを確認。有識者らでつくる審査会に報告しているが、今のところ刑事罰の対象として諮問したことはない。

 ただ、刑事罰の対象は、公権力の乱用にならないよう要件をあらかじめ厳しく定めた。刑事罰の対象となる言動がないといって、差別が無くなったといえるわけではない。福田紀彦市長は6月30日、条例の全面施行から1年を振り返るメッセージを公表。街宣活動について「不適切な表現は散見される」と指摘した。

 一方で「街宣活動が行われるたびに、駅前周辺が騒然とした状況になるのは大変残念だ」とも表明。「演説を行う者も、それに反対する者も、節度のある態度を求めたい」とした。

 ヘイトスピーチ問題に詳しい師岡康子弁護士は「刑事罰の対象とまでならなくても、在日コリアンを敵や犯罪者と見なすなど、市民を苦しめ、恐怖を与えるものがある。街宣を避けるため、駅前に行けなくなる実害も出ている」と指摘。市長が差別的言動を批判したり、街宣の現場で啓発や教育活動に取り組んだりすることを提案する。(大平要)