「スタートは、教わらんでおこう」多田修平 我を通し、届いた初舞台

陸上

堀川貴弘
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 一流になるには、時に我を通すことも必要だ。

 東京オリンピック(五輪)陸上男子100メートルに出場する多田修平(住友電工)の場合は、スタートだ。世界のトップ選手を指導するコーチに指摘されても、貫いてきた。

 多田といえば、スタートから中盤まで視線を下げ、まるで地面をなめるような走法が特徴だ。

 陸上を始めた中学1年から、いやそれ以前からこのスタイルだった、という。「飛行機が離陸する感じ」と、本人はそのイメージを語る。

 視線を上げるタイミングは、何メートル地点と決めているわけではない。レースによって違ってくるという。

 「(優勝して東京五輪の出場権を獲得した)日本選手権も前傾の区間が長くなっていたが、勝手に長くなったという感じ。その時の自分の感覚を優先してやっています」

 多田は、自身が急成長したきっかけに、関西学院大時代の海外遠征を挙げる。

 海外の最先端の体づくりなど基本を教わった一方、スタートについてはむしろこだわりを深めた。

 男子100メートルの元世界記録保持者、アサファ・パウエル(ジャマイカ)を指導する兄ドノバン・コーチに会った時だ。

 「そのスタートでは後半失速する」など“ダメだし”を食らった。スタートは多田のように、細かく刻む「ピッチ」ではなく、一歩一歩、地面に力を伝えていく「プッシュ」だとアドバイスされた。

 試してはみた。でも、「僕にはその指導がいっさい合わなくて。地面を押すと脚が後ろに流れて、次の脚を前にもっていくのに時間がかかるんです」と多田は振り返る。

 出した結論は「スタートについては教わらんでおこう」だった。

 「日本人はジャマイカの人と骨格も違うし、パワーも圧倒的に少ない。自分のスタイルがないといい走りができないと感じました。自分に合わない指示は切り捨ててやっていました」

 2017年に桐生祥秀が日本選手初の9秒台を出してから、日本選手の記録は急速に伸びている。

 その一方、多田は低迷し、19年のドーハ世界選手権は個人種目で出場できずに、400メートルリレー決勝のみの出場だった。

 「すごく悔しかった。(サニブラウン・ハキーム、桐生、小池祐貴ら)ほかの選手とはすごい差が開いてしまったなという感覚があって。その悔しさがあって、改めて練習に熱が入りました」

 そのかいもあり、今年6月、山県亮太が9秒95の日本新記録を出した布勢スプリントのレースで、自身4年ぶりとなる自己新記録10秒01をマーク。日本選手権も制した。

 「代表を決める日本選手権より、五輪は緊張感が少ないと思います。9秒台を出さないと五輪の決勝は難しいので、絶対に出したい」

 初めての五輪。目標に向けて、31日の予選からスタートダッシュする。(堀川貴弘)