2020年11月3日の米大統領選直後、元米大統領首席戦略官のスティーブン・バノンは、米大統領トランプに電話をかけ、こう言った。
「間違いなくこの選挙は盗まれている。我々はそれを証明しよう」
バノンによると、トランプは「最初から最後まで完全に同意している」と語ったという。バノンとトランプは「不正選挙」問題をめぐり、頻繁に連絡を取り合うようになる。
【連載】「トランプの反乱 再選への策謀」
昨年の米大統領選挙での敗北を認めず、「不正」を訴え続けるトランプ前大統領の再選への動きに迫る連載です。連載2回目では、トランプ氏と懐刀だったバノン元大統領首席戦略官が交わした会話を読み解きつつ、バノン氏が抱いていたトランプ氏再選のシナリオに迫ります。
*
米国内の新型コロナウイルスの感染拡大は、トランプの再選戦略を破綻(はたん)させた。トランプの「事実を直視しない」という悪い癖が決定的な場面で目立ち、対応は後手に回って危機管理に失敗。頼みの米経済も戦後最悪レベルに落ち込んだ。世界最悪の死者数にトランプの対応は「失政」の烙印(らくいん)が押され、支持率はみるみるうちに落ち込んだ。一方、民主党は前副大統領バイデンのもと「反トランプ」で一致結束を強めた。
大統領選が間近に迫った同年9月下旬。バノンは、テレビのドキュメンタリー番組のインタビューに応じた。政治アナリストのジョン・ハイルマンのインタビューで、劣勢のトランプが勝利するためのある「奇策」を口にした。
「彼ら(バイデン陣営)は、不正な票を使って今回の選挙を覆そうとするだろう。さまざまなところで大規模な訴訟が起こされるだろう。集計所では刃物沙汰の騒ぎが起きるだろう。こうした状況の中、1月を迎える。そして嵐が始まるだろう」
バノンの言う「不正な票」とは、郵便投票を指す。今回の大統領選では、予備選でも見られたように、コロナ禍の影響で郵便投票の急増が予想された。バノンが主張したのは、バイデン陣営が郵便投票を「悪用」するため、トランプ陣営は大規模訴訟で対抗することになるだろう、ということだ。
記事後半では、バノン氏が当時思い描いていた戦略について語ります。選挙後、現実に起きていたこととはどの程度違っていたのでしょうか?
バノンは、選挙結果の確定が…