バレンシアガ53年ぶり参戦 オートクチュール見どころ

ファッション

編集委員・高橋牧子
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 2021年秋冬パリ・オートクチュールコレクションが5日から8日まで開催される。パリ・オートクチュールは世界の一部の富裕層に向けた超高級注文服。フランスを中心とした伝統的な仕立てや細工の技術が競われる。

 また、近年は先端技術の発展などを背景に、今後の新たな方向性を探る「モードの実験場」としての意義もますます高まっている。加えて昨今は、株価の上昇などにより世界的に富裕層が増加している中、改めて注目されるコレクションになっているようだ。

 朝日新聞は主催者の「ブロードキャスティングパートナー」として、特設サイトで全ブランドの公式発表を配信する。

 オートクチュールコレクションは、年に2回開かれる。プレタポルテ(高級既製服)のいわゆる「パリ・コレ」が半年後のシーズンの新作を発表するのに対し、1月が春夏物、7月に秋冬物とすぐ近いシーズンの新作が披露される。一般的にシンプルなスーツで数百万円、凝った刺繡(ししゅう)のドレスなどは数千万円もの値がつけられることもざらだ。

 ただ、オートクチュールはその服の売り上げよりも、プレタポルテや化粧品、バッグなど広く商品を販売していくためのピラミッドの頂点として、広告塔の役割の方が大切だといわれてきた。参加するには、パリに店やアトリエを保持しているか、お針子さんの数は一定以上かなどの厳しい審査をクリアした上で、パリのオートクチュール連盟の会員にならなければならない。そして、世界最高峰の服を作ることができるブランドという証しでもあるのだ。

 今回の参加は約30ブランド。コロナ禍のために昨年同様、デジタルで配信されるが、リアルなショーを行い、その模様をライブで放映するブランドが増えている。なかでも目玉は、なんと53年ぶりに参加するというフランスの老舗バレンシアガだ。オートクチュール作品を公に披露するのはちょうど50回目になる。7日、パリの歴史ある通りジョルジュ・サンクの建物でリアルなショーを行う予定だ。

 バレンシアガは、「真のクチュリエ(主にパリ・オートクチュールの主任デザイナーの意)」と呼ばれ、20世紀を代表するデザイナーのひとりクリストバル・バレンシアガが1910年代に創業したブランド。作風はシンプルで構築的なフォルムが大きな特徴だ。なかでもコクーン(繭形)シルエットが有名。当時の創始者の作品を見た現在のブランドの職人が「一体どうしたらこの曲線を形作ることができるのか?」と首をかしげるほどの類いまれなる仕立ての手技が魅力のブランドだった。

 2016年からジョージア(グルジア)出身で当時34歳の人気デザイナー、デムナ・ヴァザリアが手がけていて、いま脚光を浴びているブランドのひとつだ。ヴァザリアは体が泳ぐほどのオーバーサイズやジェンダーレスのデザインで知られる。

 しかし、ヴァザリアはプレタポルテの作品で、創始者由来の構築的なフォルムを作るために3Dスキャナーでモデルの体を計測して作った金型を用い、特殊な接着法で成形したジャケットやドレスなどにも挑戦している。今回もハイテクを利用するのか、または……いつも社会的なメッセージも込められた服作りで一目置かれるデザイナーだけにファンや業界人の期待が高まっている。

 また、パリの大御所デザイナー、ジャンポール・ゴルチエはサカイのデザイナー、阿部千登勢と組んだ作品を発表する。オートクチュールの新しいビジョンを発信していくために、ゲストデザイナーを招いてオートクチュール的な物づくりをしていくプロジェクト。その第一弾として阿部に白羽の矢が立った。

 当初は昨年7月に発表するはずだったが、コロナ禍のために延期されていた。ゴルチエのクラシシズムと前衛性を融合させた作風やオートクチュールの卓抜した手技と、阿部のスポーティーでフェミニンなミックススタイルなどの現代的な感覚が影響し合うとどのようなものが生み出されるのか、興味深い。

 そのほか、常連のビッグメゾンの新作も注目される。シャネルは、19年に「モードの帝王」と呼ばれるほどの大物デザイナー、カール・ラガーフェルドの急逝に伴い、女性デザイナーのヴィルジニー・ヴィアールに代わった。それ以来、時代感覚がありながら、さりげなくフェミニンな作風で、改めてファンを増やしている。

 昨年から、凝った幻想的な映像での発表が話題だったクリスチャン・ディオールは、リアルなショーでどんな試みを見せるのか。

 ジョン・ガリアーノが率いるメゾン・マルジェラはオートクチュールのテーマやデザインを原点として、プレタポルテなどを構成していくことが多いブランド。新しいジェンダーレスな服やサステイナブルな取り組みに挑んできたブランドの次なる方向性も気になるところだ。

 また、招待デザイナーの枠として参加する若手や新進の動きも注視したい。独自のハイテク素材を使って有機的なフォルムを作るイリス・ヴァン・エルペンや、アフリカ出身のイマネ・アイシ、パリの古い生地屋に眠るデッドストックの素材をキュートな服に仕立てるジュリー・ドゥ・リブラン……。

 日本から唯一参加しているユイマ・ナカザトは、7日に映像を配信する予定だ。6月20日に横浜で行ったランウェー形式のショーを見せるという。ビスで布片を合わせて縫製なしに形やサイズをカスタマイズしたり、微生物を由来とする日本製の素材を使ったり。最近は顧客との対話を元に一点ものを作るなど実験的な試みを進めている。

 デザイナーの中里唯馬は「2016年7月3日、あるだけの力全てを振り絞って挑戦した、最初のクチュールコレクション。それからとうとう10回目の発表を迎えることができました。(中略)独自の道を変わらず突き進んできたからこそ、出来上がるものがあると思います。10回目の集大成を、ぜひ皆さんに見届けていただけたら幸いです」とコメントしている。(編集委員・高橋牧子)