現役最強…でも負ける渡辺明名人「自分には無理」なこと

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聞き手・村瀬信也村上耕司
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 渡辺明名人(37)=棋王・王将と合わせ三冠=に斎藤慎太郎八段(28)が挑んだ第79期将棋名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催、大和証券グループ協賛)は、渡辺名人が4勝1敗で初防衛を果たし、幕を閉じた。勝因は何か、新たなタイトル獲得を目指すのか――。「現役最強」とも称され、率直な物言いで知られる渡辺名人が、その心中を語った。

渡辺明名人、名人戦全5局を徹底解説「…まぁ楽観だな」「諦めるのが人間の相場」【第79期将棋名人戦】

――4勝1敗で防衛を果たしました。

「スコアはどうでも良かったんですけど、結果を出せたのはホッとしています。防衛戦でしたので」

――これまでのタイトル戦は、防衛戦の成績が特に良いです(26回のうち21回で防衛に成功)。挑戦するより、守ることに重きを置いているのでしょうか。

「重きを置いているわけではありませんが、単純にスケジュールを立てやすい。自分は2カ月ぐらい前から準備できますが、挑戦者は1カ月ぐらい前からです。番勝負で戦略を立てるのは、自分だけがやっていることではないと思いますが」

――決まっているスケジュールに向かって準備をするのが得意ということでしょうか。

「いま僕がやっている将棋は、序盤でリードを取りに行って逃げ切る将棋です。今回の名人戦の第2局、第3局のようなパターンが、ここ2、3年うまくいっているから勝っている。そういうパターンを目指そうと思った時に大事なのが、序盤研究と作戦のストックです」

「今年の場合、1月に防衛戦(王将戦七番勝負)が始まって、半年ぐらいタイトル戦が続きました。『序盤戦のストックがこれぐらい要るので、去年の何月ぐらいから準備すれば間に合う』という計画を立てやすいんです」

写真・図版
渡辺明名人=篠塚ようこ撮影

――第2局、第3局の作戦は何カ月か前から準備したんですか。

「第2局はそうでもないんですが、第3局の矢倉の作戦は温めていた手順でした。矢倉戦をやってくる人が挑戦者になったら、どこかで出そうと準備はしていました」

――それはいつごろからですか。

「作戦としてできたのは、今年に入ってからですかね。矢倉になりそうな手番の時に準備をするので、どんどん温まってくるんですよ。いつ出してもいいよ、という状態になっていたんですが、名人戦の3局目でそれが出て、うまくいった。1局目で出る可能性もありましたけど」

――戦型ごとに仕込んでおくと。

「作戦をいくつか考えておくのですが、ダメになることもあります。誰かが先にやるとか、やってもうまくいかないとか。そうなった時に、2番手の作戦を用意しておくのが大事なんです。番勝負の最中に新しいのを考えるのは結構きつい。2番手があれば、ちょっと準備すれば本番でいける状態になります」

――野球の監督の采配みたいですね。

「ああ、(タイトル戦などの)番勝負はそういうところがあるかもしれないですね。トーナメントだと、誰と当たるかも手番もわからない。そうなると、戦法の立て方がざっくりになってくるんですよ。番勝負だと相手は1人で、先手と後手が交代にくる。自分が目指している勝ちパターンの将棋をうまくやりやすい、というところもあると思います」

「作戦がうまくいっても、2回続けてやるかどうか、ということも考えます。2回目も同じように進んだら、相手が『同じ指し方、来い』というつもりでやっているわけじゃないですか。『相手が待っているところに同じ球を投げるの?』ということです。ただ、将棋の作戦は無限にはないので、同じ作戦を忘れた頃に出すことはよくあります」

――今後の目標は何でしょうか。

「目先のスケジュールは考えます。1月からやってきた防衛戦は終わりました。まだ棋聖戦五番勝負はやっていますけど、7月以降の下半期は対局数はそんなにない。そこは上半期とは別というイメージはあります。そして暮れが近づいてきたら、次の防衛戦の準備をします」

今年は挑戦できなかったタイトル戦のこと、かつて七つのタイトルを同時に獲得した羽生善治九段のことなどについても、率直に語ってくれました。

――新たにタイトルを取るという意欲は。

「よく聞かれる話なんですけど、防衛戦を1月からやるじゃないですか。その間に7月から12月にあるタイトル戦の予選、挑戦者決定トーナメントをやるんですよ。その段階で8割ぐらい勝たないと、タイトルを守ったうえに挑戦するということにならない」

「本当は7月から12月に他の…

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