最高裁判事のせめぎ合い見えた 夫婦同姓「合憲」の内幕

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阿部峻介
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 夫婦で同じ姓にしないと結婚を認めない民法と戸籍法の規定は、憲法に違反するのか。最高裁の裁判官15人がそろう大法廷(裁判長・大谷直人長官)が再び審理した結果は、5年半前の判断を踏襲したものだった。明治時代に始まったこの制度の合憲性は、なぜ短期間で再検討されることになったのか。合憲判断から1週間余り。裁判官の価値観が真っ向から対立した決定に至る、内幕を振り返る。

 「夫婦同姓訴訟が、また大法廷に回付(かいふ)された」。その情報が公にされたのは昨年12月のことだった。法曹の間では、「違憲判断をするということではないか」「合憲とした2015年の判例を変えるのか」という臆測が飛び交った。裁判所内でも「まだ5年しか経っていないが……」と経緯をいぶかしむ声があった。

実は、合憲と違憲が拮抗していた

 最高裁の審理は小法廷か大法廷で進められる。長官と判事14人の計15人の裁判官は、三つの小法廷にそれぞれ5人ずつ所属し、まずはここで事件を受ける。「法律審」と呼ばれる最高裁では地裁、高裁と違って事実関係を審理することは原則せず、正面から取り上げられるのは憲法違反や判例違反といった法解釈の重要な論点が潜むごく限られた事件だけだ。大多数がこうした要件に当たらないという理由で、数行の決定書きで処理されていく。

 小法廷が取り上げる数少ない事件のなかで、大法廷に審理の場を移すことはさらに珍しい。「回付」と呼ばれるもので、年に数件あるかどうか。その条件は、①新たな事件について合憲判断をするとき②違憲判断をするとき③判例を変えるとき――と法律が定める。過去に合憲とされた同種事件が再び回付された今回、②と③の可能性が高いと受け止められたのは、こうした決まりがあるからだ。

 ただ、回付されるのは法律が定めたケースに限らない。最高裁の規則では、「小法廷の裁判官の意見が2説に分かれ、その説がそれぞれ同数の場合」や「大法廷で裁判することを相当と認めるとき」に回付できると規定する。

 今回の場合、回付されたのは事実婚の夫妻3組が婚姻届の受理を求めた3件の家事審判。このうち1件を第二小法廷、2件を第三小法廷が受け持っていた。先月23日の大法廷の判断結果から読み解くと、二つの小法廷では合憲か違憲かの意見が拮抗(きっこう)していたことがうかがえる。

 大谷長官の所属する第二小法廷には、大法廷で「違憲」とした三浦守裁判官と草野耕一裁判官の2人がいた。長官は事務的な仕事が多く小法廷の審議には加わらないため、菅野博之裁判官、岡村和美裁判官を加えた実質4人で合憲と違憲が半々になったとみられる。

 一方の第三小法廷。回付した昨年12月の時点では、今年2月に就任した長嶺安政裁判官の前任として、同じく外交官出身の林景一氏がいた。リベラルな考えの持ち主として知られ、違憲の立場をとった宮崎裕子裁判官、宇賀克也裁判官に同調した可能性がある。

 こうして意見が割れた二つの小法廷が、それぞれ大法廷での判断を仰ごうとしたというのが、今回の回付の経緯だ。

 ここまでの傾向なら、大法廷でも判断が拮抗してもおかしくない。ただ、残る第一小法廷は同様の夫婦別姓訴訟を受け持っていながら回付のアクションをとらなかった。事情に詳しいベテラン裁判官は「大法廷に移った時点では、結論は見通せなかった。結果的に、第一小法廷の5人や長官の『合憲』の意見が一気に積み上がった」と話す。大法廷では11人が合憲、4人が違憲と判断し、前回判決よりも合憲判断が1人多い結果となった。

 今回の大法廷の決定文には、結婚に対する裁判官ごとの価値観の違いが色濃くにじんでいる。

最高裁裁判官たちの判断とは

記事の後半では、大法廷が再び「合憲」と判断した6月23日決定の判断の「分かれ目」を読み解きます。

■裁判官の「結婚観」の違い…

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