「ワクチンなんかええ」野宿者の接種 同行記者が見た壁

有料会員記事

長富由希子
写真・図版
新型コロナウイルスの1回目のワクチン接種を済ませた60代後半の野宿者の男性。接種した日も公園で寝た=2021年6月16日午後4時25分、京都市、長富由希子撮影
[PR]

 路上などで暮らすホームレスの人は、厚生労働省の調査で全国に約4千人いる。住民票をもとにした新型コロナワクチンの接種は可能なのか。支援団体の活動に記者が同行すると、住民票の問題以外にも、様々なハードルがあることが見えてきた。

 6月中旬の午後。京都市の公園で、野宿者支援のNPO法人「ゆい」の谷本千里さんら3人が、70代後半のホームレスの男性を捜していた。市と連携したワクチンの周知活動だ。本人が接種を希望すれば、ゆいの車で区役所まで一緒に行き、接種券の発行を受ける計画だ。

 この日は小雨が降っていた。男性は雨がひどいと、普段寝泊まりするこの公園から移動することもある。携帯電話も持たない。広い公園を3人と記者が小一時間ほど捜したが、見つからない。

写真・図版
新型コロナウイルスのワクチン接種を説明するため、公園で野宿者を探すNPO法人「ゆい」のメンバー=2021年6月16日午後2時22分、京都市、長富由希子撮影

 「今日は別の場所にいるのかもしれない」。谷本さんらがあきらめかけた時、生け垣を背に地面にしゃがみ込み、弁当を食べている男性が目に入った。

 谷本さんは、男性の横にしゃがみこんだ。

 「コロナって知ってはる? 世界中が大変になっている」

 男性は口を動かしながらにこやかに答えた。「何かはやっとるらしい」

 男性は腕の良い職人だったという。谷本さんがワクチンの効果などを説明するが、男性は徒歩での日本一周の経験を語りながら「自分は元気そのもの」と日に焼けた顔で笑い、「ワクチンなんかええわ」と言う。

 谷本さんらが先週に会った際は接種に前向きだったというが、この日は慎重な様子だ。男性と15分ほど話した後、谷本さんは接種の希望は薄いと判断。「また来るね」と立ち上がった。

テレビもラジオもなく、生きることで精いっぱい

 「テレビもラジオもなく、毎日が生きることで精いっぱい。コロナの情報が不足していて、健康なのにどうして接種が必要なのか、腑(ふ)に落ちない人も多い」と谷本さんは話す。

 NPOの軽自動車に乗り、次に訪れたのは市内の河川敷だ。テントを張って暮らす70歳前後の男性がいる。

 谷本さんが名前を呼ぶと、テントから男性が、上半身だけのぞかせた。

ホームレス状態の人にワクチン接種をどう周知し、希望者への接種を進めるか。あまり知られていない様々なハードルがあることが取材で見えてきました。野宿者の接種率が極端に低くなることを危惧する声も上がります。

 谷本さんがワクチンの効果を…

この記事は有料会員記事です。残り1982文字有料会員になると続きをお読みいただけます。