最後の瞬間は皆の近くで 女子記録員、普段は男子と練習

佐藤瑞季
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 「お願いしまーす!」

 その部員は、はにかみながら打席に立った。6月中旬の放課後、瑞浪(岐阜)のグラウンドでは実戦形式の練習をしていた。球を見極めて3球目。力強く振ると大きく飛び、右前安打に。「颯良(さら)さん、さすがですね」。後輩の言葉に再びはにかんだ。

 伊藤颯良さん(3年)は友達に誘われ、小学校ではソフトボール部、中学校では軟式野球部に。高校では、テニス部に入るつもりだったが、先輩や監督に誘われ、野球部に決めた。

 「やるからには、女子だということを言い訳にしたくない」。練習は基本的に男子部員と同じメニューをこなす。冬の筋トレ、走り込み、インターバル走……。練習がつらくて、泣きそうになることもあった。

 そんなとき、支えてくれたのは部員たちだった。走っていると「颯良、頑張れ」と応援してくれた。疲れた表情をしていると「あれ、元気ないね?」と声をかけてくれた。一緒に過ごすうちに、少しずつ、心を開いていった。

 「野球部は私の大切な居場所です」。人見知りで、友達は多くない。学校では恥ずかしくて男の子とは話せない。でも、野球部員だけは特別だ。

 練習試合で安打を放つことも多いが、女子部員のため、公式戦では選手としてプレーすることはできない。

 高1の夏は試合前のノッカーとして参加した。「みんなと同じユニホームに袖を通してグラウンドに立ちたかった。自分も同じ選手なんだと実感できた」

 一方で、歯がゆさもあった。ノッカーは試合が始まれば、グラウンドから退き、ベンチの外に出て行かないといけない。試合中に近くで声をかけたくても、かなわない。もともと声が大きい方ではない。精いっぱい応援したつもりだが、「たぶん聞こえていないだろうな」と感じた。

 今年の夏は、自分にとっては「最後の夏」。部員の一番近くで、最後の瞬間を迎えたい――。ベンチ入りできる記録員なら、皆の近くにいられる。監督とも相談し、記録員として出場することに決めた。

 投手の鈴木健哲(たつのり)君(3年)は「3年間、楽しいこともつらいこともともにした颯良がベンチにいてくれるのは心強い」。外野手の井箟(いのう)健太朗君(3年)は「颯良は一生懸命で、めげない。いつも刺激をもらってきた。夏はベンチで一緒に戦ってもらいたい」。

 この2年半、いつも部員の言葉に救われてきた。夏は自分が、選手たちに前向きになれる言葉をかけたいと思っている。「夏も皆と楽しく、全力で野球をしたい。元気にプレーできるよう、最後まで声をかけ続けます」(佐藤瑞季)