「ワクチンで不妊」はデマです 証拠のない主張に注意を

酒井健司
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 インターネットを中心にワクチンについて不正確な情報が出回っています。たとえば、河野太郎大臣や複数の専門家がデマだと指摘している「新型コロナワクチンで不妊になる」という話があります。こうした根拠のない話は日本に限らないようで、米CDCのサイトにも「現時点で、新型コロナワクチンを含むいかなるワクチンも、不妊症を引き起こすという証拠はありません」と書いてあるぐらいです。

 動物実験レベルではワクチンが妊娠に悪影響を及ぼすことは観察されていません。観察されていればヒトを対象とした臨床試験に進めません。臨床試験でも妊娠に対する悪影響はみられませんでした。一般的に臨床試験には妊娠女性は参加できませんし、参加中は妊娠を避けるように求められますが、それでも何万人もの参加者の中には妊娠してしまう事例はあります。そういう事例を集めて解析したところプラセボ群との差は認めませんでした。

 新型コロナワクチンは多くの人に使用されています。日本で使用されているファイザー製およびモデルナ製ワクチンも全世界で少なくとも数億人以上に使われており、ワクチンを接種した後に妊娠が判明した人も数多くいます。追跡調査も行われていますが、やはり悪影響は観察されていません。

 「そうは言っても、妊娠に対するワクチンの長期的な影響はまだ不明だ。現時点で証拠がなくても、将来、ワクチンが妊娠になんらかの影響を及ぼす証拠が出てくるかもしれない」というご意見もあるかもしれません。そのような慎重な意見は十分に傾聴に値しますが、そのこととは別問題として、「ワクチンで不妊」はデマだといえます。長期的な安全性への懸念と、証拠もなしに危険だと断定する主張をきちんと区別しましょう。何度も言いますが、ワクチン接種は自分の意思で決めるべきで不安があれば打たなくてもかまいません。ただ、デマに影響されて打つ打たないを決めるのは望ましくありません。

 デマに対抗するのはとても難しいです。不安をあおる断定的な主張は拡散されやすいため、動画の再生やフォロワーの獲得を目的に意図的にデマを発信している人もいるでしょう。何らかの対策は必要ですが、表現の自由言論の自由がありますので、デマだからと安易に規制するのはそれはそれで問題です。

 デマに対抗する言論を出すことも、効果的とは言い難いです。いまお読みいただいているコラムは、はじめからワクチンの安全性に懸念のない人にはご納得していただけるでしょう。しかし、ワクチンで不妊になると信じている人が読んで意見を変えるとは限らず、「長期的な影響はまだ不明だと認めている!デマと言えない!」「デマではなく真実だからこそマスコミは否定するのだ!」と信念を強固するだけかもしれません。

 デマを知らなかった人がだまされるのを予防することは期待できますが、一方で、否定的な内容でもデマ情報に何度も接することでデマ情報を信じてしまうこともあります。完全に信じなくても、もしかしたらと不安になることだってあるでしょう。デマに対する「特効薬」はありません。難しい問題です。

 ※参考:COVID-19 Vaccines While Pregnant or Breastfeeding https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/recommendations/pregnancy.html別ウインドウで開きます(酒井健司)

酒井健司
酒井健司(さかい・けんじ)内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。