事故で重体→奇跡的に回復した後輩のため 草津高野球部

安藤仙一朗
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 4月24日。草津(滋賀)の選手たちに、一枚の画用紙が届いた。

 草津高頑張れ 近江に勝ってください 応援してます

 部員の大野楓芽(ふうが)君(2年)のメッセージだった。

 届けたのは、母・芳子さん。その日、チームは春季大会初戦だった。

 少し曲がった大きな字が、力強かった。

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 昨夏の県高野連独自大会、草津は17年ぶりに「夏2勝」をあげた。その後に始動した新チームも勢いに乗っていた。

 秋季大会は8強進出。1点差の打撃戦も制した。春の選抜大会「21世紀枠」で県の推薦校にもなった。

 レギュラーの大野君は、コロナ対策で試合を見られない家族に、勝つたびに興奮気味に連絡してきた。

 春、さらなる躍進を狙っていた。

     ◆

 3月19日。

 朝練習のため、いつも通り午前6時15分ごろに自転車で家を出た。

 しばらくして、自宅の電話が鳴った。

 母親が出ると、「今すぐ病院に向かって下さい」。

 警察からだった。車にはねられ、意識不明の重体だった。医師は「社会復帰は難しい」と告げた。

 衝撃は大きかった。

 「信じられなかった」

 山辺優寿希(ゆずき)君(2年)は言った。大野君とは、練習後、自転車で一緒に帰る仲だった。

 事故の2日ほど後、グラブを取りに来た両親から、耳は聞こえていると知らされた。そこで部員全員と監督のボイスメッセージを集めた。

 愛されキャラの後輩のため「自分ができることをしたかった」という捕手の堀井優大君(3年)も、約20人にメッセージをもらった。SNSで、大野君の中学時代の同級生まで探し出した。

 2人から届けられたみんなの声を、母親はベッドの息子に繰り返し聞かせた。

 4月1日。

 母親に電話があった。

 「うれしい知らせです。呼びかけに応じました!」

 医師が奇跡的というほどの回復ぶり。すぐに、食事や補助付きの歩行もできるようになった。

 「早く野球部に戻って試合がしたい」

 そんな思いを胸に部員に書いたのが、青い画用紙の手紙だった。

 「ガタガタだけど頑張って書いたのが伝わってきた。あいつ、すごいな」

 堀井君はそう思った。

 チームは目標を定めた。

 「大野にウィニングボールを」。だが4月の春季大会は近江に敗れ、果たせなかった。

 大野君は今、7月10日の選手権開幕までの退院を目指して、京都市の病院でリハビリに励む。

 彼のリハビリを思い、きついランニングに耐えたというエースの服部真司君(3年)は「自分ではなく他の人のため、後悔なく終われるように戦いたい」。

 家に泊まりに行ったこともある野口心温(しおん)主将(3年)は誓っている。

 「大野に一球でも多く、ウィニングボールを渡す」(安藤仙一朗)