天国の母にもう一度本塁打を あの時と同じ機会が夏にも

仙崎信一
[PR]

(3日、高校野球鹿児島大会 鹿児島1-0徳之島)

 「天国のお母さん、見ててくれ」。もう一度本塁打を打つ姿を見せたい。徳之島の4番、盛聡志(もりそうし)選手(3年)はそんな思いで打席に立った。

 突然の出来事だった。

 昨年9月、秋の県大会、鹿児島情報との1回戦。リードされて迎えた最終回、盛選手は変化球を左翼席に運んだ。1点差に迫る特大アーチ。応援席にいた母千鶴さんも大喜びしてくれた。

 試合はそのまま7―8で敗れたが、母の前で見せた納得の一発に誇らしい気持ちだった。「ホームランボール、見せて」。試合後、球場の外で千鶴さんにボールを手渡すと、満面の笑みで活躍をたたえてくれた。

 急な知らせが届いたのは、翌朝、徳之島に帰るフェリーの時間を待っているとき。「お母さんが車の事故で病院に運ばれた」。信号停止中、何らかの病で意識を失ったという。娘に会いに行くためレンタカーを運転中だった。すぐに病院に駆けつけたが、話もできない状態だった。

 意識は戻らないまま、1カ月後、千鶴さんは天国に旅立った。43歳。「最後に母にホームランを見せられて良かった……」。女手一つで育ててくれた千鶴さんに感謝の気持ちを伝えようと、葬儀では「これからも野球を頑張るよ」と声を振り絞った。母が最後に「見せて」と言ったホームランボールは、そっと棺に入れた。

 しかし、力が出せない。「2カ月間ぐらいぼーっとした感じだった」。春になっても調子は上がらなかった。「最後まで野球をやり続けろ」と言ってくれた母の言葉を思い出し、夏をめざした。

 身長181センチ、体重96キロと恵まれた体。チーム一の長打力を誇る三塁手。「明るくてチームのムードメーカー」(吉田公一監督)はチームに欠かせない存在だ。この日の鹿児島戦。スタンドには千鶴さんの写真を持って祖母が応援に来ていた。しかし緊張からか打撃では思うような結果が出なかった。一方、守備では二回、三塁打を狙った相手走者をタッチアウトにし、チームを救った。

 0―1で迎えた最終回は先頭打者。あの時のように追いかける展開だったが、すくい上げた打球は二塁手のグラブに収まった。そのままチームも敗れた。

 「4番としての仕事ができなくて悔しい。最後に活躍する姿を見せたかった」と盛選手。でも野球を続けるという母との約束はしっかりと守った。(仙崎信一)