祇園祭の山鉾、2年ぶり組み立ての不安と「強い味方」

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北村有樹子
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釘を使わない「縄がらみ」という工法で鉾を組み立てる職人たち=2019年、京都市下京区、佐藤慈子撮影
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 日本三大祭りの一つ、祇園祭が1日に始まり、月末にかけて様々な関連行事が執り行われる。コロナ禍のなか、今年は2年ぶりに京都の街中に山鉾が建つ。その日に向けて準備する人たちがいる。(北村有樹子)

 祇園祭の期間に大型の鉾(ほこ)が立ち並ぶことから、「鉾の辻」と呼ばれる四条室町交差点。その南にある鶏鉾(にわとりほこ)の収蔵庫には、鉾のさまざまなパーツとともに、関係者がラミネート加工して大事に保管している十数枚の写真がある。

「今年は勘が鈍っているかも」

 「今年は勘が鈍っていると思うので、これがあって心強い」。そう喜ぶのは、鶏鉾の櫓(やぐら)や屋根を組み立てるチームの棟梁(とうりょう)で建設業、小林久也さん(53)だ。

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鶏鉾の収蔵庫で「縄がらみ」のラミネート写真をながめる小林久也さん=京都市下京区、北村有樹子撮影

 A4判でプリントされた写真の数々に写っているのは、縄が巻き付けられた木材。「縄がらみ。鉾マニュアルやね」と小林さんは言う。

 鶏鉾は、ギリシャ神話の英雄ヘクトールがトロイア戦争を前に妻子と別れる場面をモチーフにした、国重要文化財のタペストリーが有名だ。装飾品を支える高さ約24メートルの本体は、釘を1本も使わず、縄で木材を固定することで組み立てられている。この特殊な技法が、縄がらみだ。

 「電動ドライバーでビスを留めたり、金づちで釘を打ったりするのとは全く異なる作業」と、小林さんは縄がらみについて説明する。

 縄が緩まないよう、木づちでたたいては引っ張りながら、櫓の柱や鉾の中心に立つ「真木(しんぎ)」のパーツを締めつけていく。使う縄は6キロメートル分で、重さ300キロほどにもなる。

 従来、この伝統技法は、地元の職人たちが口伝えと現場での作業を通して伝えてきた。これが写真となって「見える化」されたのは約5年前。大工チームの一人、吉野孝之さん(49)がデジタルカメラで撮ったのが始まりだ。

 「大工チームに入ったころは、メンバーが総入れ替えされたころ。やり方を教えてくれる人が内部にはいなくて、ほかの山鉾(やまほこ)に関わっている工務店に教わって覚えた。鉾を建てるのは年に1回だけ。写真で残せば翌年も役に立つと思った」と吉野さんは言う。

 新型コロナウイルスの影響で、昨年の祇園祭は山鉾巡行や山鉾を路上に建てての宵山(よいやま)などが中止された。今年も巡行は中止だが、山鉾建ては34ある各山鉾保存会の判断でやってよいことになった。山鉾に使われている縄がらみが、2年連続でやらないことで廃れかねないと、関係者が心配したためだ。

 作業は、ぶっつけ本番。幸い、鶏鉾には「マニュアル」がある。暗譜していなくても楽譜を見て演奏するイメージに近いようだ。近年は作業工程をスマートフォンのカメラで撮り、クラウド(インターネット上の保管場所)に保存もしているため、いつでも手軽に見られる。

 「ラミネートの写真を見ながら手を動かしたい。巡行できないのは残念やけど、鉾建てができるのはありがたい」と小林さんは言う。

 一方、「黒主山(くろぬしやま)」の保存会は、手伝ってくれる職人の廃業も心配している。コロナ禍で建設業の景気が心配だからだ。昨年12月に収蔵庫の整理と掃除をした際には、棟梁らに仕事を依頼。本来の山建ての仕事ではないが、保存会の大田龍二理事長(68)は「少しはお役に立てたかも」と話す。

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鷹山のお囃子の練習。笛の奏者は手ぬぐいで口元をカバーして演奏していた=2021年5月23日、京都市中京区、北村有樹子撮影

お囃子の練習に「横笛シールド」

 コンチキチンで知られる祇園祭のお囃子(はやし)は、各山鉾(やまほこ)の「囃子方(はやしかた)」と呼ばれるメンバーらが太鼓や横笛、鉦(かね)を使って響かせる京都の夏の風物詩。飛沫(ひまつ)が飛ぶという指摘もあって、コロナ禍の昨年来、沈黙を強いられてきた。

 今年は違う――。大船鉾(おおふねほこ)の囃子方たちが、そう思えたのは4月のことだ。

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横笛シールドをつけて演奏する大船鉾の囃子方代表の吉井英雄さん=2021年6月5日、京都市下京区、北村有樹子撮影

 その日、集まった面々を前に…

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