その髪、隠さなくていいの? イランの女性のしたたかさ

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テヘラン=北川学
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 若い男女が乗ったホンダのバイクが、高速道路を快走する。女性はヘルメットをしておらず、肩まである髪があらわになっていた。ここは中東イラン。イスラムの教えが重んじられる「神の国」で、何が起きているのか。

 エジプトに駐在する私は6月、大統領選挙の取材でイランに出張した。ある候補者の記者会見に車で向かう時だった。交差点で信号待ちしていると、若い女性が横断歩道を渡った。搾りたてのオレンジジュースを右手に持った、栗色のショートヘア。髪を覆うはずの「ヘジャブ(ヒジャブ)」と呼ばれる布は、両肩に掛けただけ。別の日、スーパーに行くと、腰までありそうな黒髪を後ろで束ねた若い女性がレジの前にいた。緑色のヘジャブは首に巻いていた。

 首都テヘランで過ごした8日間、街中でヘジャブをかぶらない女性を10人ほど見かけた。数こそ多くはないが、そもそもイランではあり得ないことだ。

なぜ髪を覆うのか

 イランに限らず、イスラム教徒の女性が髪を覆うべき根拠は聖典コーランにある。

 《信者の女たちに言ってやるがいい。かの女らの視線を低くし、貞淑を守れ。外に表れるものの外(ほか)は、かの女らの美(や飾り)を目立たせてはならない。それからヴェイルをその胸の上に垂れなさい。自分の夫または父の外は、かの女の美(や飾り)を表してはならない》(日本ムスリム協会「聖クルアーン」御光章31節から)

 その解釈によれば、女性は、髪など美しいところを夫や父親、兄弟といった身内以外の男性に見せてはならず、隠すべきだとされる。

 1979年の革命でイスラム体制に移行したイランでは、外国人を含めて女性は公の場では髪を覆い、体の線を隠すコートを着ることが義務となっている。刑法は違反者に「10日間~2カ月の禁錮または5万~50万リアル(約130~1300円)の罰金」と定める。

 私は2010年4月から13年8月までテヘランに駐在した。若い女性の多くが、ヘジャブを後頭部に浅くかぶって前髪を見せていた。当時は保守強硬派のアフマディネジャド政権。風紀警察の取り締まりが定期的に行われていた。ヘジャブをかぶらない人は一度も見たことがなかった。

 13年8月に保守穏健派のロハニ政権に代わってからは取り締まりが緩くなり、女性たちは大胆になった。19年6月、安倍晋三前首相のイラン訪問の取材でテヘランに出張した時のこと。カフェに入ると、女性客の半数ほどが、ヘジャブを脱いで脇に置いていた。カフェの店内も「公の場」。見てはならないものを見た気がして、落ち着かなかった。

結婚前の交際、ご法度だけど

 若い女性の本音が知りたい。人口8300万人のうち、7割以上が革命後に生まれた若者たち。衛星放送やインターネットで欧米の価値観を知り、それまでの世代とは感覚が異なる。取材を打診すると、匿名を条件に2人が応じてくれた。

 「ヘジャブなんて、かぶりた…

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