みんなで野球「当たり前ではない」 コロナで気づいた

西晃奈
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 昨年5月20日、その日は雨だった。

 岩泉高(岩手)2年だった前川颯雅(ふうが)君は野球部の部室で、夏の甲子園と地方大会の中止を伝える会見をスマホで見ていた。県内で1人の感染者も出ていない新型コロナウイルスの感染拡大防止が理由だった。

 横にいる3年は押し黙っている。練習後は部室に戻ってこなかった。

 1週間ほど経ち、主将ら3年生6人が部室にやってきて、言った。「大会も全校応援もないし、俺たちは指導に回ろうと思っている。頑張ってくれ」

 「何言ってんですか。早く練習に行きますよ」。前川君は言い返した。

 だが、グラウンドに来た3年は練習着でなくジャージー姿だった。

 部員は全部で13人で、小中学校からの同級生が多い。先輩・後輩というより、家族みたいな間柄だ。自分も揺れ始めた。

 中学から一緒の同級生、内村飛龍(ひりゅう)君と三田地尽礼(じんらい)君に相談した。

 「先輩が部活をやらないのに、やっている意味はあるのかな」。話し合ったが結論は出ない。

 だが、同級生のマネジャー袰野(ほろの)和奏さんと1年は練習を続けていた。

 「自分だけ本気じゃないのは失礼だ」。迷いを振り切った。

 6月9日、県独自大会の開催が決まると、3年が戻ってきた。「せっかく開いてくれるなら、ちゃんとやりたい」

 結果は1回戦敗退。でも、野球をみんなでやれる喜びが何より勝った。

     ◎

 新チームになると、部員の推薦を受け、主将に指名された。「不安だけど、自分が引っ張らないと」と己を奮い立たせた。

 後輩が試合で緊張し、周りが見えなくなっていれば、冗談を言って和ませる。練習で手を抜いていたら、厳しく叱った。

 今春、1年の選手は入ってこず、夏の岩手大会は大槌、山田と連合チームを組んで出場することになった。土日の合同練習では、2校の後輩にも積極的に声がけを始めた。

 だがそのころ、勝ちにこだわる前川君と、楽しくやりたい内村君との間で、野球に向き合う姿勢に違いが出てきた。

 「部活辞めたい」

 ある日、前川君にメッセージが届いた。無理に引き留めても仕方がない。そう思ったが、細かいところに気がつく内村君がいないチームも考えられない。

 「もっと一緒にやりたかった」。そう返信した。

 翌日、内村君は練習に顔を出した。「頑張っている颯雅を置いていけない」。少し照れながら言った。

 ムードメーカーの三田地君は腰を痛め試合に出られなくなっても、練習に来てくれている。

 自分一人で野球はできない。そして、野球ができるのは当たり前ではない――。前川君にとって、そう気づかされた2年余りだった。

 「心が折れかけたが、ここまで続けて本当によかった。その思いが伝わるくらい、楽しくやりたい」

 連合チームの初戦は7月9日。着るのはそれぞれの学校のユニホームで、見た目はバラバラだが、心は一つになっている。(西晃奈)