「球速差えぐい」カーブ、握り方に秘密 甲子園投手直伝

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 「顔の近くから、かくっと落ちてストライク」。「けんちゃんカーブ、球速差えぐいわ」。部員がそう話す「けんちゃんカーブ」とは、福知山成美(京都)の右腕、上野拓磨(3年)が投げるカーブのことだ。

 打者の顔付近の高さから、ひざ元の高さまで斜めにするどく落ちる。通常のカーブより球速は遅いが、落差が大きいのが特徴だ。

 投手の名は上野拓磨。なぜ「けんちゃんカーブ」なのか。上野は「藤原健太コーチから教わった変化球なので、けんちゃんカーブと名付けた」と話す。

 同校野球部で投手の指導を務めるコーチの藤原健太(39)は、1999年、福知山成美の前身、福知山商が初めて甲子園に出場した時の主戦投手だ。藤原は上野の投球にかつての自分の姿を重ねていた。「制球力はいいのに、単調な投球で打たれている」

 上野は、右上手から投げる130キロ台の直球を武器にしていた。昨秋、柏原(兵庫)との練習試合。初回から真っ向勝負を挑んだが、打者1巡目から、自慢の直球は痛打され始める。兵庫県出身の上野は、相手チームに中学で所属したクラブチームの仲間も多かった。「逃げる投球だけはしたくない」。ピンチでも捕手のサインに首を振り、直球で勝負し続けた。

 五回、その直球が高く浮いた。打者は中学時代の友人。左翼に本塁打を放たれた。笑顔で塁上を回る旧友を見ながら「このままの投球じゃ全然ダメや」。これまでにない敗北感を味わった。

 試合直後、上野は藤原から声をかけられた。「球速差がないから打たれたんや。球速差をつけるために、人さし指を軽く立ててカーブを握ってみろ」。これが「けんちゃんカーブ」だった。

 上野は初めて投げる球種に戸惑った。指の握りを意識しすぎて、一時は制球が定まらなくなった。捕手のミットどころか、ブルペンを飛び出してしまう「大暴投」をしたこともあった。だが「京都を制し、甲子園に行った投手が教えてくれた球種だから」。諦めずに練習を重ねた。

 冬場の練習でも、時には朝7時からブルペンで投げ込んだ。練習後、帰りの電車では「少しでも指にかかる感覚をつかむために」とボールを握り続けた。

 今年3月の紅白戦。仲間には内緒で「けんちゃんカーブ」を投げてみた。直球と組み合わせ、球速差をつけながら投げる。打席に立った主将の前田壮一朗(3年)は「直球との球速差が40キロくらいあって、タイミングが取りづらい。打者からしたら嫌らしい球だった」と話す。次々打者を打ち取り、主軸のバットの芯に当てさせなかった。

 春季府大会で、上野はエースナンバー「1」を初めて背負った。このカーブを織り交ぜ、秋は痛打された直球も、打者の振り遅れが目立った。上野は「変化球との球速差で、打者には直球が速く見えている。緩急で勝負できる投球ができた」と振り返る。

 京都大会までは、さらに制球力を磨き府内の強打者と対するつもりだ。上野は「自分が投手陣を引っ張って優勝し、健太コーチと甲子園に行く」と意気込む。

(敬称略)

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 〈カーブ〉投手の投げる腕とは反対方向に曲がりながら落ちる球種。横の変化より、縦の変化が大きい。投手は、ボールを放す瞬間に、球の半分を切るように「空手チョップ」をイメージして投げる。直球との球速差や高低差によって、打者の目線を惑わせたい時に有効。ただ、球速が遅いので狙われると打たれやすい。(取材協力=奥本保昭さん・元京都成章監督)